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習慣  作者: エチュード
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習慣

 多くの日本人選手が米国で活躍するようになってからMLBに興味を持ち、主にドジャースの試合をチェックしている。といっても、動画サイトで既に終わった試合のハイライトを見るくらいなのだが。

 ところで、いつものように動画を見ていると、多分昨年の試合中に撮られた短い映像だと思うのだが、大谷選手と捕手のスミス選手が並んでベンチに座っていた。暫くしてスミス選手が噛んでいたガムを口から取り出すと、次の瞬間グラウンドへ向かってそれをポイッと投げた。動画を見ているだけの私もびっくりしたが、隣に座っていた大谷選手の驚いた顔といったら…。大谷選手といえば、落ちているゴミを拾うことが知られている。その彼の目の前でガムをポイ捨てするなんて。言葉にこそしなかったが、彼は多分「何てことをするのだ?」と言いたかっただろうことをその表情が物語っていた。大谷選手を始め日本から行った選手にとって、グラウンドは少年野球の頃から聖域のように教えられてきただろうし、そこへ向かってゴミ(しかも掃除の面倒なガムをそのまま)捨てるなんて。そんな大谷選手に対して、スミス選手は一瞬「何?」という顔をしたが、二人とも何も言わなかった。

 そんな行為をしたからと言って、スミス選手が悪い訳ではない。彼は良い捕手で、昨年は大事な時にホームランを打ったこともある。この件に限らずMLBの試合中継を見ていると、ベンチではどのチーム、どの選手もヒマワリの種を食べ散らかしている。日本人選手は紙コップに皮を入れているが、他の選手は誰もそんなことを全く気にしていない。MLBには南米など世界各国から選手が集まっているが、その場が汚れることを誰も気にしていないみたいだ。また、ドジャースではホームランを打った選手の顔に、ヒマワリの種を浴びせるという祝い方があって、それもベンチから出た所、つまりグラウンド内で行われる。これらは習慣だから彼らにとってはごく普通のことなのだろう。日本にはモノを散らかしたりその場を汚しても良いとする習慣はまずない。だから、そんな場面を目撃すると衝撃を受けてしまう。

 日本を旅行している外国人の意見として、日本の街がとても清潔できれいだという話をよく聞く。あまり外国旅行をしないので比較はできないが、多くの外国人がそう言っているということは、本当にそうなのだろう。私たちは清潔な街の様子に慣れているのであまりわからないが。反対にゴミが落ちていたり、あちこちに落書きがしてあったりすると、落ち着かないし嫌な気分になる。

 日本の街がきれいな理由として、四六時中清掃の仕事をしている人が配置されているという訳ではない。勿論、決まった時間に掃除がされる場所もあるにはあるが、全てがそうではない。では、掃除をしなくてもきれいな状態が保てるのは何故かと言うと、その場所を利用する人や通り過ぎる人が極力汚さないように心がけているからに他ならない。

 また、街中のあちこちがきれいな割にゴミ箱が少ないこともよく指摘される。私は度々利用する駅周辺におけるゴミ箱の在りかをしっかり記憶している。だから、外出中にゴミが出た場合、記憶しているゴミ箱にたどり着くまでバッグにゴミを入れておく。或いは家まで持ち帰る。それに、できるだけゴミが出ないようにしている。

 「郷に入れば郷に従え」という諺がある。新しい土地や環境、社会に入った際には、その場所の習慣や風習、やり方に従うべきであるという意味の諺だ。

この諺について、他の言語でも同じ意味の言葉や言い回しがあるかとAIに訊いてみた。すると、英語、フランス語、イタリア語など、だいたいどの国の言葉にも同じものがあるという。しかし、AIの見立てでは日本語の「郷に入れば郷に従え」が、教訓めいた雰囲気を持つのに対して、他の言語のそれは軽さがあるというのだ。「こんな風にした方が良いよ」とでもいうような。

 アメリカに何年も住んでいるからといって、大谷選手にとって噛んでいたガムをポイ捨てするなんてことは考えられないし、それと同じくらいにMLBの選手たちが、ヒマワリの種を散らかさないように食べるのも難しいのだろう。なにせ習慣だから。習慣と言えばある意味文化の一端みたいなものだ。それを変えるにはそれが培われてきた年月と同じくらいの時間を要するのではないだろうか。

 日本を訪れている外国人に対して、我々と同じ意識を持てというのも無理なことかも知れない。でも、行く先々の街がきれいに保たれているということは、そこを訪れる人による美意識の賜物なのだということを、心のどこかに置いてもらえたらと思う。




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