8.
噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。
ただ、同じ事を繰り返す。それは今日から始めた事ではない。
「生きる」為に、死なない為に。日常と化した、当然の動作。
「……新鮮な死体は、そう何度も手に入るものではないからのぅ……」
路地裏。
つい先ほど『剣』が殺めた、少女の残骸。
その遺体の首に齧り付き、血を啜っているそれを一言で話せば、常人のものではない、と断じてしまえるのだろうが。
擦り切れた、ぼろぼろの外套。体躯の程は定かではない。
掠れて、しわがれた、到底人のものとは思えない声。
恐らく歩いてきたであろう道には、腐臭すら漂う黒い汁の跡が残っている。
幽鬼だの吸血鬼だの、そういった評を落とすのが正しいのだろう──そんなものは、伝承の中にしか存在しないものなのだが。
「ひっ、ひ……」
笑っていた。
引き攣った声が、笑っていた。
いつの間にか摂食と呼ぶべき行為を終え、身を起こしていた影は。
とても嬉しそうに、笑っていた。
「そろそろ、生きている人間も食って良いのかもしれんが……ひひっ。どうなるかなど、儂にもわからんからのぅ……」
腐臭を引きずり、外套は路地のより深い暗闇へと消えていく。
ここに腐臭が漂っている事など、国にとっては日常でしかない。それはこの怪物の存在を隠す衣として、いつの間にか機能していた。
遺体も、気が付けば損壊されている事など当たり前だ。最後に使える遺品を漁る者など、わざわざ調べ上げる程の必要もない。
実に、不快な事に。
この国は、化物が隠れ棲むだけの条件が整っていた。
「儂の魂が安定すれば、機には恵まれましょうぞ。また逢える日を楽しみにしておりますぞ──薬師殿」
凶兆は、確かにそこに居た。




