表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

8.

 噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。噛む。啜る。

 ただ、同じ事を繰り返す。それは今日から始めた事ではない。

「生きる」為に、死なない為に。日常と化した、当然の動作。


「……新鮮な死体は、そう何度も手に入るものではないからのぅ……」


 路地裏。

 つい先ほど『剣』が殺めた、少女の残骸。

 その遺体の首に齧り付き、血を啜っているそれを一言で話せば、常人のものではない、と断じてしまえるのだろうが。

 擦り切れた、ぼろぼろの外套。体躯の程は定かではない。

 掠れて、しわがれた、到底人のものとは思えない声。

 恐らく歩いてきたであろう道には、腐臭すら漂う黒い汁の跡が残っている。

 幽鬼だの吸血鬼だの、そういった評を落とすのが正しいのだろう──そんなものは、伝承の中にしか存在しないものなのだが。


「ひっ、ひ……」


 笑っていた。

 引き攣った声が、笑っていた。

 いつの間にか摂食と呼ぶべき行為を終え、身を起こしていた影は。

 とても嬉しそうに、笑っていた。


「そろそろ、生きている人間も食って良いのかもしれんが……ひひっ。どうなるかなど、儂にもわからんからのぅ……」


 腐臭を引きずり、外套は路地のより深い暗闇へと消えていく。

 ここに腐臭が漂っている事など、国にとっては日常でしかない。それはこの怪物の存在を隠す衣として、いつの間にか機能していた。

 遺体も、気が付けば損壊されている事など当たり前だ。最後に使える遺品を漁る者など、わざわざ調べ上げる程の必要もない。

 実に、不快な事に。

 この国は、化物が隠れ棲むだけの条件が整っていた。



「儂の魂が安定すれば、機には恵まれましょうぞ。また逢える日を楽しみにしておりますぞ──薬師殿」



 凶兆は、確かにそこに居た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ