表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

4.

 聞くところによると、この魔女は五百年前から生きてきたらしい。

 歴史の転換点に立ち、或いは当然のように危機を払い。国を、世界を救い続けてきた──とかなんとか。

 伝聞だ。それを証明する手段には乏しい。少なくとも本人の言だけでは信頼には値しない。

 ただ事実として、「そういう人物」と思われる誰かが存在していた。そうして現存しているのが、『徽』という魔法使いらしい。


 高貴。天上。誉。華。そして、徽。

 それらしい英雄が使った名前は、書本に残る限りでは統一されない。

 だから、彼女が「そう」である事を、正しく証明する手段は無い。無いのだ。


「五百年ねぇ。……そんだけ生きてれば、人間の感性なんてものは捨ててそうなもんだけどな」


 懐疑的だ。

 反面、だからこそ納得できる事も多くある。


「人間は確かに辞めちゃってるけど、人間である事を辞めたくはなくてね。私はこれでも、人らしい生活は維持してるよ」


 一息。


「少なくとも、不老不死になる前からやっていた事は変わりない。し、人と関わる事も諦めない。物語にいるような厭世的な不死者って、つまらない生き方だと思わない?」

「快楽主義者か?」

「否定はしないねぇ」

「……先代の『つるぎ』も、アンタの対応には手を焼いていたらしいしな。もう少し改めて貰えると楽できるんだが」

「むり。」


 溜息。

 ……『剣』が直接の伝聞として知る範囲で、三十年は彼女の姿に変わりない。少なくとも不老というのは事実なのだろう。

 これで老いると言うのであれば、また別の意味で魔女と言う。


「しかしなぁ。不老不死になる方法がわかってるなら、それで飯食っていけそうなもんだがな」

「そう?」

「術式を汎用化すれば、欲しい奴は欲しがるだろ。生老病死から人間が解き放たれたら、それは楽園と言えるんじゃないか?」

「ふむ。」


 考える素振りを見せる『しるし』。

 しかしそれは、すぐに振り払われて。


「やだな。誰も彼も死ななくなるのって、気持ち悪くない?」

「不死者」

「特権」

「……さいで」


 あまりの発言に呆れる『剣』。

 こうも身勝手な彼女だから、今日に至るまで、ずっと振り回されている気もしている。



「それにさ。正直、どうやって不死になるのか知らないんだよね」



「──は?」


 さらり、と。

 大して重要でもないかのように、彼女はそれを口にした。


「気付いたら不老になってて、それから不死である事にも気付いてさ。うん。実はこっそり困ってる」

「……待て。アンタ、自分から不死身になったんじゃないのか?」


 誤認していた。

 少なくとも『剣』が生まれた時から、彼女は不死である事は当然だった。

 不死者らしいとされる振る舞いからは遠くとも、それは誰もに受け入れられていた、周知の事実であったのだ。

 だからそれは、当人が望んだものだろうと。求めたものだろうと、自然とそう思い込んでいた。


「結果としては自分から、なのかな。いや、事故みたいなものだけどさ。聞いたら笑うよ?」


 望まない不死なら、『剣』の仕事はひとつ増える。

 目を合わせて、軽く頷き、続きを促す。彼女の視線から外すように机に隠した左手に、悟らせず力を込めながら。


「ほら。私って魔法大好きじゃん?」

「……そうか? ……そうだな」

「うん。で、昔から色々と魔法をかき集めててさ」

「おう」

「民族風俗土着と、色々と節操無しに集めててさ」

「おう」


「気が付いたら不死になってて、でもまぁこれはこれで良いかなって」

「偶然な上に気にしねぇのかよこの無頓着」


 脱力。

 ……本当に、彼女の奔放さには振り回されっぱなしである。


「折角だから、不死身の生活を楽しまないと損じゃない?」

「…………すげー、疲れた……」

「ほら、休憩休憩」

「アンタのせいだぞ」


 もし必要なら、彼女が望むなら、その「不死」ごと斬る事を考えていたが。

 不要であれば、と。『剣』の左手は緩やかにほどける。

 雑談に無用な時間を割いてしまったという自責。そろそろ本格的にこの女を追い出して、自分の仕事に戻ろうかという所で。



「──『剣』様、急用です! お力を!!」



 執務室の扉が、乱暴に開かれた。

 飛び込んできた使者の表情には、恐怖の色が滲んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ