第7話 空飛ぶ巨大ハムスターの襲来
夜の静寂を切り裂き、王宮の飼育舎に巨大な影が舞い降りた。それは、パルゥの「友達」を名乗る巨大な飛行魔獣であった。丸々としたフォルムに、空を覆わんばかりの翼。その姿は、さながら空飛ぶ巨大なハムスターのようだった。
更生したばかりの密猟者たちが腰を抜かす中、ジヴだけは目を輝かせていた。彼のギフト【黄金の指】が、その巨躯から立ち上る凄まじい「黒いモヤ」を捉えたからだ。
「……なんてことだ。空の旅で毛並みがバサバサじゃないか。それに、翼の付け根が極度の筋肉痛を起こしている。これは一刻を争うぞ!」
ジヴにとって、相手が伝説の巨大魔獣であろうと関係なかった。目の前に「解されるべき極上の毛並み」がある。ならば、やるべきことは一つだ。
「パルゥ、手伝ってくれ。この巨体を一人で揉み解すには、君の協力が必要だ」
「ぷきゅー!」
パルゥが返事をするように鳴き、巨大獣の背中へと飛び乗る。ジヴもまた、梯子を駆け上がり、巨大な毛の海へと飛び込んだ。
たん、たん、たん
ジヴの全身を使った、全力のマッサージが始まった。通常のブラッシングとは次元が違う。全体重を乗せ、黄金の波動を翼の深層筋まで叩き込む。巨大な綿雲が波打ち、空中に溜まっていた静電気と汚れが、浄化の光となって散っていく。
「…………グルゥ……ゥゥ……」
巨大獣が、恍惚とした地鳴りのような声を漏らした。空を駆ける伝説の獣が、ジヴの指先一つで、ただの巨大な湯たんぽのようにとろけていく。数時間後、その毛並みは夜空の月光を反射し、琥珀色の銀河のように輝きだした。
ようやく満足したのか、巨大獣はパルゥと鼻先を寄せ合い、別れの挨拶を交わす。そして飛び立つ直前、ジヴに向けて、その低い声を響かせた。
『……揉み師の人間よ。礼を言う。だが、警戒せよ……。バルガルド帝国の魔獣使いが、感情を消された殺戮獣を連れ、こちらへ動き出している……』
巨大獣は重要な警告を残すと、夜空へと消えていった。ジヴは、パルゥの頭を優しく撫でながら、静かに拳を握った。
「……殺戮獣、か。どれだけ凝り固まっているか知らないけど、僕の指から逃げられると思わないことだね」




