第6話 密猟者たちの、静かなる絶叫
帝国の外交官ルベールまでもがパルゥの琥珀色の輝きに屈し、逃げ出した後のことだった。王国に束の間の静寂が訪れたが、それはジヴにとって新たな「戦い」の始まりでもあった。
夜の王宮飼育舎。ジヴはパルゥの寝床の湿度が、この極上の毛並みを維持するのに最適かどうかを確認していた。そこへ、音もなく忍び寄る複数の影があった。
「……いたぞ。あれが帝国の将軍さえ骨抜きにしたという『天嵐獣』か」
「毛の一本一本が金貨に見えるぜ。慎重にやれ。傷をつけたら値打ちが下がる」
彼らは、世界中の希少動物を狙う闇の密猟団だった。パルゥの放つ「バニラの香り」と「至高の質感」の噂は、すでに裏社会にも広まっていたのである。
密猟者の一人が、麻痺毒を塗った吹き矢を構えた。だが、その手が、なぜか小刻みに震えだした。
「おい、どうした。さっさと撃てよ」
「ち、違うんだ……。暗闇の中でも、あの琥珀色の光沢が……目に焼き付いて、狙いが定められない……!」
ジヴは、彼らの存在に気づきながらも、あえて背を向けたままパルゥのブラッシングを続けていた。
たん、たん、たん。
静寂の中に響く、心地よいリズム。密猟者たちは、その音を聞いた瞬間、全身の力がふっと抜けるような感覚に襲われた。ジヴがパルゥの毛並みを整える際、無意識に漏れ出す「癒やしの波動」が、彼らの闘争心をじわじわと溶かしていたのだ。
「……そこにいるのは、わかっていますよ」
ジヴが静かに振り返った。ギフト【黄金の指】が、暗闇の中に潜む男たちの「不摂生と欲による凝り」を正確に捉える。
「あなたたち、長年の野宿と緊張で腰がガチガチですね。そんな状態で動物を捕まえようなて、パルゥに失礼です」
「な、何を……!野郎、殺してやる!」
密猟者が短剣を抜いて飛びかかった。しかし、ジヴは避けるどころか、一歩前へ踏み出し、密猟者の腕のツボを鋭く突いた。
「ギュッ」
「――ッ!?!?!?」
叫び声すら出なかった。激痛ではない。今まで味わったことのない、雷のような「快感」が全身を駆け抜けたのだ。密猟者の男は、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
「せっかくですから、あなたたちも手伝ってください。パルゥの冬毛を梳かすのは、人手が必要なんです」
ジヴは恐怖に固まる残りの密猟者たちに、高級なブラシを握らせた。逃げようとした彼らだったが、ジヴの指圧で半分とろけた状態では、身体が言うことを聞かない。渋々パルゥの毛に触れた瞬間――彼らの運命は決まった。
「……ああ……なんだ、この綿雲のような手触りは……」
「俺たちは、なんて汚れた仕事をしていたんだ……。この光り輝く生命を、檻に入れるなんて……!」
数分後。そこには、涙を流しながら一心不乱にパルゥをブラッシングし、「ここで働かせてください!」とジヴに泣きつく男たちの姿があった。
しかし、改心した彼らの頭上に、突如として巨大な影が差した。夜空を切り裂くような翼の音。
「な……なんだ、あの巨大な……ハムスターのような怪鳥は!?」
空から舞い降りたのは、伝説の獣パルゥの「旧友」を名乗る、巨大な飛行魔獣だった。




