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伝説の守護獣の威嚇が「だっこ」にしか見えない〜汚れと凝りが視える【黄金の指】を持つ僕、伝説の獣をゴシゴシ揉み解して世界を平和にしてしまう〜  作者: 九条 綾乃


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第4話 宰相閣下は、毛並みで語る

 「鉄血」の将軍が号泣し、銀髪の騎士団長が肉球に顔を埋める。そんな混沌とした広場に、コツ、コツと、乾燥した足音が響き渡った。


「実に見事なものですな。これほど鮮やかに戦火を鎮めるとは」


 現れたのは、糸のように細い目の老人。王国のまつりごとを一手に担う宰相、カドゥルである。彼はジヴの目の前で立ち止まると、感情の読み取れない笑みを浮かべた。その背後には文官たちが控え、パルゥを「未知の戦略資源」として測量しようと目を光らせている。


「ジヴ殿。陛下に代わり、貴殿の功績を称えましょう。……しかし、これほど強力な『兵器』を放っておくわけにはいかない。パルゥ殿は今後、国の特別管理施設へと移送していただく」


「特別管理施設、ですか」


 ジヴはパルゥを抱き直した。彼の【黄金の指】には、カドゥルの喉元から立ち上る、どんよりとした濃灰色のモヤが見えていた。それは、長年にわたる過重労働と、一切の潤いを排した冷徹な思考が積み重なった「精神の石灰化」だった。


「お断りします。この子は今、僕が配合した薬草オイルで毛穴を整えている最中です。環境が変われば、この『極上の毛並み』は一瞬で台無しになる」


「ほう。一介の下働きが、国家の決定に背くというのですか?」


 カドゥルの細い目が、さらに鋭く細められた。サフィニが異を唱えようと口を開きかけたが、ジヴがそれを手で制した。


「宰相閣下。あなたこそ、今すぐ休息が必要です。……閣下、最近は眠りが浅く、常にこめかみが締め付けられるような痛みを感じているのではありませんか?」


「……何?」


「わかりますよ。あなたの頭皮、岩のようにガチガチですから」


 ジヴは歩み寄り、パルゥをサフィニに預けると、カドゥルのこめかみにそっと指を当てた。


「無礼な!控えよ!」


 文官たちが騒ぎ出すが、カドゥルは動かなかった。ジヴの指先から、熱を帯びた『黄金の波動』が伝わってきたからだ。


「たん、たん、たん」


 指先が踊る。凝り固まった神経の節々を、的確に、そして執拗に。カドゥルの意識の奥底で、張り詰めていた「義務感」という名の鎖が、一本、また一本と千切れていく音がした。


「……っ、ああ……」


 カドゥルの膝が、かすかに震えた。ジヴは追い打ちをかけるように、パルゥをカドゥルの腕の中に放り込んだ。


「あ」


 カドゥルの腕に、未知の重量感が伝わる。それは単なる獣の重さではない。数百年かけて蓄積された極上の綿雲が、彼の痩せた腕を包み込み、その体温が氷のように冷え切った宰相の心臓を直接温める。


「もちっ」


 パルゥが、カドゥルの胸板に顔を押し当てて寝返りを打った。その瞬間、宰相の脳内で、冷徹な計算式がすべてバニラの香りに溶けて消えた。


「…………素晴らしい」


 カドゥルは、糸目を大きく見開いた。その瞳には、初めて生気が宿っていた。彼は、自らの腕の中で眠る琥珀色の塊を、壊れ物を扱うように、ゆっくりと、震える手でブラッシングし始めた。


「これだ……。数字や法律では決して得られぬ、究極の均衡バランスがここにある……」


 宰相カドゥル、陥落。彼は自身の膝の上でとろけるパルゥを見つめながら、静かに、だが確信を持って告げた。


「ジヴ殿。前言を撤回しましょう。パルゥ殿を檻に入れるなど、人類の損失だ。……この至高の毛並みさえあれば、我が国に難癖をつけてくる隣国の外交官どもなど、赤子も同然……」


 カドゥルは、すでにパルゥを「最強の外交カード」として利用する準備を始めていたが、その手つきは、すでに重度の依存症患者のそれであった。

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