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伝説の守護獣の威嚇が「だっこ」にしか見えない〜汚れと凝りが視える【黄金の指】を持つ僕、伝説の獣をゴシゴシ揉み解して世界を平和にしてしまう〜  作者: 九条 綾乃


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第12話 可愛くない魔獣の、悲しき叫び

 王宮の中庭に立ち尽くす、その異形。バルガルド帝国が誇る禁忌の魔獣兵器『無毛の殺戮獣カースド・パルサ』。その姿には、獣としての尊厳も、生命としての美しさも微塵も感じられなかった。本来ならば漆黒の美しい毛並みを誇っていたはずの皮膚は、呪術的な処理によって無残に剥ぎ取られ、露出した筋肉の上には、赤黒い呪印が脈動するように刻まれている。目は虚空を見つめ、ただ上位者からの「殺せ」という命令に従うだけの、肉の機械。


「グ、ル、ル……」


 咆哮ですらない、喉の奥から漏れる軋んだ音。その異様な姿に、サフィニは剣を構え、メゼールは苦渋に顔を歪ませた。パルゥはジヴの足元で、かつてないほどの激しい「威嚇だっこ」のポーズをとっている。


 だが、ジヴの【黄金の指】が捉えていたのは、脅威ではなかった。それは、石のように硬く、火傷のように熱を帯びた、全身の凄まじい「凝り」だった。


「……なんてことだ。これはひどい。凝りすぎて、ただ立っているだけで痛い。そんな状態で、誰かを襲わされているのか」


 ジヴの独り言に、殺戮獣が反応した。感情を消されたはずの獣が、わずかにその濁った瞳を揺らす。次の瞬間、音もなく豹のような巨躯が地を蹴った。


「ジヴ、避けろ!」


 サフィニの叫びをよそに、ジヴは一歩も引かなかった。空気を切り裂く鋭い爪がジヴの喉元に迫る。だが、ジヴは最小限の動きでそれをかわすと、逆に懐へと飛び込んだ。


「たん、たん、たん」


 ジヴの指先が、殺戮獣の首筋にある「第一の呪印」を正確に叩いた。


「――ッ!?」


 殺戮獣の動きが、糸の切れた人形のように止まった。ジヴの指から放たれた『黄金の波動』は、皮膚の表面を素通りし、筋肉の深層、そして骨を縛り付けていた呪術的な硬直に直接干渉した。


「痛かったよね。感情を消されても、肉体は痛みを忘れてくれない。君が今感じている怒りは、自分自身の身体の苦鳴なんだ」


 ジヴは流れるような動きで、殺戮獣の背中から腰にかけて、集中的に指圧を叩き込んでいく。たん、たん、たん。一定のリズム。それは、パルゥを洗浄する時の優しさとは異なる、病巣を抉り出すような鋭く力強い一撃。


 ジヴがツボを突くたびに、殺戮獣の皮膚に刻まれた赤黒い呪印が、パリン、パリンとガラスのように砕け散っていく。強制的に魔力を循環させられていた「詰まり」が解消され、どす黒い霧のようなオーラが体外へと排出されていく。


「グル、ア……アァ……!」


 殺戮獣が、初めて「悲鳴」を上げた。それは恐怖の叫びではなく、長年の激痛から解放され、せき止めていた感情が溢れ出したことによる、魂の慟哭だった。


「メゼールさん、今です!仕上げを手伝ってください!」


「心得た、師匠!」


 メゼールがジヴの指導通り、修行の成果を見せるべく一歩踏み出した。彼は自身の禍々しい魔力を、ジヴの波動に合わせるようにして「鎮静の波」に変え、獣の腹部を大きく撫で上げた。ジヴとメゼールの、師弟による共同マッサージ。黄金の波動と、かつての天敵による「許し」の魔力が混ざり合い、中庭を温かな光が包み込む。


 すると、奇跡が起きた。呪印が完全に消え去った皮膚から、驚くべき勢いで「毛」が生え始めたのだ。それは、以前のような無機質なものではない。夜空を切り取ったような深い紺青色。月光を浴びて銀色に輝く、シルクのような極上の毛並み。


「……キュ〜ゥ?」


 パルゥが、おそるおそる近づく。そこには、もはや醜い殺戮獣の姿はなかった。ジヴの足元で丸くなり、初めて感じる「安らぎ」に、大粒の涙を流して震える一頭の美しい豹がいた。


「よしよし。もう大丈夫。これからは、この国でゆっくり休むといい。毎日僕が、最高のコンディションに整えてあげるから」


 ジヴがその紺青色の頭を優しく撫でると、元・殺戮獣は甘えるように喉をゴロゴロと鳴らした。だが、その感動的な光景を、空から降る冷酷な笑い声が引き裂いた。


「――ふん。ゴミ屑どもをいくら洗ったところで、所詮はゴミに過ぎんというのに」


 空中に浮かぶ魔法陣から、漆黒の法衣を纏った老人――帝国の宮廷魔導師にして、魔獣改造の黒幕が現れた。彼の背後には、さらに巨大な魔力が渦巻いている。


「伝説の獣、パルゥよ。そんな下働きに媚びる姿、見るに堪えんな。貴様こそ、帝国の偉大なる力の下で、完全な『兵器』となるべき存在だ」


 黒幕の侮辱。それに対し、今までジヴに甘えていたパルゥの全身から、静かな、しかし圧倒的な「怒り」の波動が立ち上った。

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