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伝説の守護獣の威嚇が「だっこ」にしか見えない〜汚れと凝りが視える【黄金の指】を持つ僕、伝説の獣をゴシゴシ揉み解して世界を平和にしてしまう〜  作者: 九条 綾乃


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第10話:獅子のタテガミを、解きほぐせ

 宝石の貴公子リフェルが空へと逃げ去った後、王宮の中庭には、静かな、しかし異様な光景が広がっていた。かつて「剛毛獅子」と呼ばれ、触れるものすべてを切り裂く鉄の針を纏っていた巨獣が、今や一頭の巨大な仔猫のようにジヴの足元で喉を鳴らしているのだ。


「……さて。表面は解れたけど、本番はこれからだね」


 ジヴは、パルゥをサフィニに預けると、袖を捲り上げた。彼の【黄金の指】には、獅子の白銀のタテガミの深層に、まだ幾重にも重なった「凝りの核」が視えていた。空輸中の極度の緊張と、リフェルによる宝石を使った強引な魔力強化が、この獅子の心身を芯から硬直させていたのだ。


 ジヴは、獅子の巨大な頭を優しく抱え込むようにして、タテガミの根元に指を沈めた。


「たん、たん、たん」


 指先から伝わる黄金の波動が、獅子の分厚い筋肉の層を突き抜け、骨のキワにある「詰まり」を正確に射抜く。


「――グルゥ……ッ!?」


 獅子の巨躯が大きく跳ねた。痛みではない。あまりの解放感に、神経が過剰に反応したのだ。ジヴの指が動くたび、鋼鉄のようだったタテガミが、まるで雪解けのように「ふわっ」と膨らんでいく。一本一本の毛が独立し、空気を含んで輝きを増していくその様は、まるで銀色のオーロラが地上に降りてきたかのようだった。


「信じられん……。あのアイアン・メインが、カシミアよりも滑らかになっている……」


 傍らで見守っていたメゼールが、震える声で呟いた。かつての同僚が操っていた殺戮兵器が、ジヴという青年の手によって、至高の芸術品へと昇華されていく。


 たん、たん、たん。


 ジヴはリズムを崩さない。仕上げに、パルゥの換毛期に収穫した琥珀色の綿毛を混ぜ込んだ特製ブラシで、一気に毛流れを整える。銀と琥珀。二つの伝説の輝きが混ざり合い、広場にはバニラと清涼な森の香りが溶け合った、究極の「癒やしの芳香」が立ち込めた。


「……よし。これで、本来の君だ」


 ジヴが手を離すと、獅子はゆっくりと立ち上がった。白銀のタテガミは歩くたびに波打ち、その質感は見る者の脳をとろけさせるほどに柔らかい。獅子は、自らの変化を確かめるようにパルゥに鼻先を寄せると、感謝を伝えるようにジヴの頬をザリッと舐めた。


「ぷきゅ〜!」


 パルゥが獅子の頭の上に飛び乗り、誇らしげに胸を張る。だが、その直後だった。パルゥは、ジヴの手が獅子のタテガミに残っているのを見逃さなかった。


(……キュ!?)


 パルゥの小さな瞳が、嫉妬に揺れる。いつもは自分だけが独占していた「黄金の指」が、今は自分よりも巨大で、しかも自分に負けず劣らず「極上の毛並み」になった新参者に向けられている。


 パルゥは獅子の頭から滑り降りると、ジヴの足首に「もちっ」としがみつき、精一杯の力でジヴの手を引き寄せた。それは、伝説の獣による、あまりにあざとい「独占欲の威嚇だっこ」だった。


「あはは。パルゥ、焼きもちかい?大丈夫だよ、君が一番なのは変わらないさ」


 ジヴは苦笑しながら、パルゥと獅子を交互に揉み解し始めた。銀と琥珀、二つの至高の質感がジヴの両手を満たす。しかし、この平和すぎる光景を、城壁の上から冷ややかに見つめる瞳があった。それは、バルガルド帝国から密かに送り込まれた、宝石の貴公子をも凌ぐ「本物の魔獣使い」の影だった。

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