第八食『奇跡のTKG』
突然だが、私は誘拐された。
『黒猫のしっぽ亭』で『ボムボム岩のプリンアラモード』を食べたまでは記憶にある。
しかしその後、あれよあれよと言う間に連れ去られ、現在私はユノリア王国にいる。
この異世界アウルシアには4つの国があり、先日まで私が食べ歩きをしていたのがアスガルド王国。一番大きな国で世界の中心と言われている。
そして私が今いるのはユノリア国。
海に面した国で、漁業が盛んで海産物が豊富らしい。
誘拐された経緯は謎だ。
異世界人(地球人)が珍しかったのだろうか。
薄暗い牢屋に入れられ、とんでもない目に合わされるかと思いきや……なんと、ユノリア国第2王子・ジュリアン様に拾われ、今私は豪華な城でリッチな生活をしている。
ジュリアン様は優しいし、周りの人も親切だ。何不自由ない「お客様」扱いだ。
しかし。
私は自分の欲望に忠実だ。
海に面しているなら、海産物が美味いはず。
城で出される上品なフレンチ(風)もいいが、私の胃袋はもっと野性的な「市場メシ」を求めている。
私はジュリアン様に「ちょっと散歩に行ってきます(意訳)」と懇願し、城を飛び出した。
待ってろ! 異世界の海産物!
†==================†
海沿いの街は、活気に満ちていた。
潮の香りが心地良い。
空を見上げれば、カモメの代わりにワイバーンが旋回し、沖の方ではクジラのような巨大な海王類が、ザッパーンと豪快にドルフィンダイブを決めている。
スケールが違う。
潮風と海水を盛大に浴びながら、私は目的地へ向かう。
私の目的地は、海産物を新鮮な状態で食べられる、日本で言うところの「黒潮市場」だ。
市場へ着くと、海の男たちが荒々しく、魚なのか人魚なのかよく分からないものを包丁で捌いていた。
すごい熱気だ。女性は殆どいない。
そんな中、一際異彩を放つ看板を見つけた。
『激流葬・ポセイドンの台所』
すごい名前だ。
客を海に沈める気満々じゃないか。これは期待できる。
店に入ると、床がビチャビチャだった。
海水? いや、何かヌルヌルしている。
席に着くと、ピチャ、ピチャと音を立てながらウェイトレスがやってきた。
猫耳……いや、違う。
流石は海の街だ。アスガルドとは生態系が大きく違う。
目の前にいるのは、半魚人……いや、ほぼ「魚人」だ。
エラがある。鱗がある。手には水かきがある。
もはやウェイトレスなのか、食材が歩いているのかすら分からない。
「キエー」
彼女(?)は奇声を発しながら、メニュー表をドンと置いた。
メニューを見る。
・『クラーケンの踊り食い(吸盤注意)』
・『セイレーンの喉仏の唐揚げ』
・『愛の結晶』
……パンチが効きすぎている。
美味いのかどうかすら分からないラインナップだ。
その中でも、一際異彩を放つ『愛の結晶』を頼むことにした。
なんの料理か分からない。愛の結晶
?魚料理みたいなものか?
だが、それでいい。未知への挑戦こそがグルメだ。
私はメニューを指差した。
待つこと数分。
魚人ウェイトレスが、またピチャピチャ音を立てながら歩いてきた。
しかし……歩くたびに、身体から滴る海水と粘液で床が大量に濡れていく。
他のお客さんがツルッと滑って転んでいる。
労災案件だ。店としてどうなんだ。
私の前に立ち、皿をテーブルに置く。
!?
皿には何も乗っていないぞ?
空の皿だ。
注文の仕方が悪かったのか? そもそも人と意思疎通できるのかすら怪しい。
私が「あの……?」と尋ねようとした、その時だ。
「キエーーーー!!」
魚人が、突然店内に響き渡るような大声を出した。
奇声なのか、叫びなのか。
たまらず耳を塞ぐ。
なんだなんだ、何を怒っているんだ?
見ると、魚人の顔が茹であがった蟹の如く真っ赤になっている。血管が浮き出ている。
怖いんですけど。ブチギレですか?
すると。
ボトッ。
魚人の口(あるいは腹部?)から、何かが産み落とされ、皿の上に転がった。
ソフトボール大の、半透明な丸い物体。
卵だ。
ハァ、ハァ……。
魚人は肩で息をしている。明らかに「生みの苦しみ」を味わった直後の顔だ。
そして、やり切った表情で厨房へ帰っていった。
……いや、待て待て待て!
料理名の卵って、お前の卵だったんかい!!
しかも、これで終わり!?
茹でるとか焼くとか、味付けとかあるだろう!
皿の上には、粘液混じりの生卵がひとつ、鎮座している。
気持ち悪い……。
正直な感想だ。これを食えと?
だが、私は膳所高生。そしてグルメハンターだ。
出されたものは残さない。
私は卵を手に取り、まずは状態の確認を行う。
透かして見る。
……よし、無精卵だ。
もし割って魚人の赤ちゃんが出てきたら、流石にトラウマになるところだった。
次に、食べ方を確認する。
周りの客を見る。
……誰も私と同じ料理を注文していない。
それどころか、漁師風の男たちが「あいつ、マジか……」「あれを生でいくのか?」という目で私をマジマジ見ている。
奇人変人を見る目だ。
知れたこと。
天才と呼ばれる人種は、初めは皆から奇人変人扱いされていた。ガリレオも、エジソンもそうだ。
私もそう。私こそが異世界グルメの先駆者だ。
食べ方や調理方法が無いなら、作ればいい。
私は魚人ウェイトレスを呼び、ジェスチャーで「お湯(Hot Water)」をオーダーした。
茹で卵にするか、スープにするつもりだった。
魚人はまた「キエー!」と言って、顔を赤くし……。
ボトッ。
更にもう一個、卵を産み落とした。
違う! そうじゃない!
増やしてどうする!
満足げに厨房に帰る魚人。
所詮は魚……人間と意思疎通できると思った自分を恥じるしかない。
手元には、生卵が二つ。
仕方が無い。やるか。
私は鞄から、秘密兵器を取り出した。
『キャンプギア』だ。
折りたたみ式の五徳、固形燃料、そして飯盒
五徳を組み立て、固形燃料をセットし、飯盒を置く。
チャッカマンで火を付ける。
店内で焚き火を始める女子高生。周囲の視線が痛いが無視だ。
水は……注文したらまた卵を産まれそうだ。手持ちのペットボトルの飲料水で代用する。
日本から持ち込んだ無洗米を飯盒に投げ入れ火を付ける
そう、ここぞという時のために持っていた、日本のソウルフードだ。
数分後。
ほかほかと湯気を立てて、白米が炊き上がった。
磯の香りがする店内で、日本の米の香りが広がる。
私は炊き上がった米の中央に窪みを作り、魚人の卵を割った。
殻は硬いが、中身はプルンとしている。
黄身(?)が黄金色に輝く。
国民的料理、TKG(TAMAGO KAKE GOHAN)の完成だ!
「おおぉ……」
湧き上がる観衆。漁師たちが身を乗り出している。
私は鞄から醤油を取り出し、回しかける。
一気にかき込む。
……うまし!
鶏の卵と比べると、少し塩気があり、濃厚でクリーミーだ。
クセはあるが、磯の風味と思えば食べられない事は無い。
むしろ、醤油との相性が抜群だ。
しかし、問題発生。
余計に産まれた、もう一個の卵だ。
TKGにするにも、サトウのご飯はもう無い。
詰んだ……。
生で飲むロッキー・スタイルしかないのか?
そう思った矢先、魚人がまたやってきた。
皿に、山盛りの「白いなにか」を乗せている。
プルプルとした、寒天のような、ゼリーのような白い塊。
どうやら、これに卵をかけて食べるのが正解らしい。
早く言え! 早く!
白い何かが一体なんなのか……未知だが、生で卵を飲むよりはいい。
私は無心で二個目の卵を割り、白い物体にかけた。
追い醤油をして、スプーンで掬って食べる。
……食感はナタデココ? 味は……無?
正直よく分からないが、卵と醤油の味でコーティングすれば食えない事は無い。
喉越しはいい。
「ごちそうさまでした!」
私はスプーンを皿に投げつけ、人差し指を天高く掲げた。
パチパチパチパチ……!
店中から拍手喝采。
言葉は通じなくとも、食を通じて皆の心がひとつになった瞬間だった。
†==================†
城へ帰り、私は今日食べた物を、ジュリアン様に筆談で伝えた。
『魚人の卵』と、『白いプルプルしたもの』。美味しかった、と。
ジュリアン様は、私のメモを見て、青ざめた顔で教えてくれた。
(白いなにかは、魚人の体液を集めて固めた保存食だよ)
その夜。
私はトイレで、全てリバースした。
TKGの思い出と共に、私の淡い恋心(魚人への感謝)も、水に流れて消えていった。
【本日の評価】
★★★☆☆(星3つ)
TKGは絶品。
ただし、サイドメニューの正体を知る勇気が必要。
【こぼれ話】
何故誘拐されたの?
突然出てきたジュリアンは誰?
などなど詳しく知りたい方は、ほのかの母が主人公の『母は、異世界で天下をとる』を是非読んでください。
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