第七食 異世界のプリンアラモード
異世界に来ても、私は忙しい。
午前中は、ほとんど勉強に費やしている。
剣や魔法の修行ではない。ガチの受験勉強だ。
異世界に来ても、私は忙しい。
午前中は、ほとんど勉強に費やしている。
剣や魔法の修行ではない。ガチの受験勉強だ。
地球に帰れば、ただの学生
中間テストもあれば、期末テストもある
夏休みだからと浮かれてはいられない。
カリカリカリ……。
羊皮紙に数式を書き殴るペンの音が止まる。
「ふぅ……」
集中力が切れた。脳の糖分が枯渇している。
――腹が、減った。
今の私の胃袋は、炭水化物ではない。即効性のある糖分、そう、スイーツを求めている。
よし、店を探そう。
私は参考書を閉じ、制服のスカートを翻して街へ繰り出した。
目指す店は決まっている。
以前、あの衝撃的な「白うさぎ(鏡餅)のミートパイ」を食べた時に、メニューの端に見つけて気になっていた店だ。
路地裏にひっそりと佇む、隠れ家的なカフェ。
その名も『黒猫のしっぽ亭』。
カランカラン。
扉を開けると、甘い香りと共に落ち着いた空間が広がる。
私は迷わず、あの一品を注文した。
数分後。
テーブルに置かれたのは、黄金色に輝く魅惑の物体。
『ボムボム岩のプリンアラモード』。
「ほほう……いいじゃないか」
見た目は、王道のプリンアラモードだ。
中央に鎮座するカスタードプリン。そのプルプルとした質感は、スプーンで触れる前から弾力を主張している。
周囲には、異世界の果物(見た目はキウイだが色は青い)と、たっぷりの生クリーム。
だが、唯一つ、異質なものがある。
ソースだ。
別添えの容器に入っているソースが、毒々しいほどに真っ赤なのだ。
『ボムボム岩』という物騒な名前の由来はこれか?
私はスプーンを手に取り、まずはソースをプリンにかけてみる。
とろりとした赤い液体が、黄色いプリンの上を滑り落ちる。
その瞬間だ。
シュワワワ……。
「……紫?」
赤いソースが、プリンに触れた箇所から紫色の泡に変化していく。
なんだこれは。リトマス試験紙か? 化学反応なのか?
さすがSSH指定校の生徒に対する挑戦状と受け取ろう。
食べる前から実験気分を味わわせてくれるじゃないか。
私は、紫に変色した泡とプリンを一緒にすくい上げた。
スプーンの上で、プルンと揺れる。
いただきます。
パクッ。
……ん?
これは……。
懐かしい。
子供の頃、近所の駄菓子屋で食べた「ねるねるねるね」のような、あるいは舌の色が変わるガムのような。
身体に悪そうな、でも抗えない魅力を持った人工的な甘み。
ビターなカラメルではなく、ケミカルな駄菓子の味だ。
いや、悪くない。
高尚なスイーツもいいが、こういうジャンクな甘さが、勉強で疲れた脳には一番効くのだ。
口の中でパチパチと弾ける紫の泡。
そして、濃厚なカスタードの甘みがそれを包み込む。
うん、美味い。
これならいくらでも食べられそうだ。
私は夢中でスプーンを動かした。
……しかし、私はまだ知らなかった。
この『ボムボム岩』の本領は、口に入れてから数秒後に発揮される「時限式」だということを。
「ごちそうさまでした!」
私は、路地裏にある隠れ家的なカフェ『黒猫のしっぽ亭』を出て、満足げにお腹をさすりながら帰路についた。
いやぁ、凄かった。
今日食べた『ボムボム岩のプリンアラモード』は、まさに衝撃的だった。
見た目は、プルプルと揺れる黄金色のカスタードプリン。その周りを彩るフルーツと生クリーム。
でも、スプーンですくって口に入れた瞬間――。
ボォン!!
と、口の中で小規模な爆発が起きたのだ。
比喩ではない。本当に爆発した。
「痛っ!?」と涙目になった直後、焦げたカラメルの香ばしさと、濃厚で滑らかな卵の甘みが、爆風と共に口内全域を制圧するのだ。
まさに、アメとムチ。暴力的なまでの美味しさ。
舌の上でとろけるカスタードの余韻は、さっきの爆発の痛みさえも快感に変えてしまうほど。
あれは、魔性のスイーツだ。日本に持ち帰ったら、絶対に行列ができるに違いない。
「はぁ……幸せ。次はどのお店に行こうかなぁ」




