第31話 私たちの潜入ミッション
「――最強の潜入チーム、ねえ」
フィオナさんの自信満々な言葉に、私は思わず、ふっと笑みを漏らした。
確かに一人で面倒な『お掃除』をするより、二人でスリリングな『ミッション』に挑むほうが、ずっと冒険の予行演習としては、面白いかもしれない。
「……分かりました。その話、乗りましょう」
「よしきた!」
フィオナさんは、待ってましたとばかりにテーブルに身を乗り出した。
こうして、その夜、私たちの作戦会議は新たな局面を迎えた。
ただの討伐計画ではない。誰にも知られず、歴史の裏側で脅威を排除する。
そんなプロフェッショナルな作戦へと。
「まず、基本方針だ」
フィオナさんは、立体地図の上に指を走らせる。
「敵の拠点は、この『嘆きの山脈』のど真ん中にある。周囲は常に魔の瘴気に覆われていて、普通の人間なら近づくだけで正気を失う。おまけに無数の魔物が常に徘徊しているはずだ」
「なるほど。だから、今まで誰も手を出せなかったんですね」
「そういうことだ。だが、私らには関係ない。リリ、あんたの結界魔法で、この瘴気を一時的に無効化できないか?」
フィオナさんの問いに、私は少し考え込む。
「……できますよ。拠点全体をすっぽりと覆うように浄化の結界を張れば。そうすれば瘴気も消えるし、外部からの魔物の侵入も防げます」
「完璧だ! それなら私たちが中にいる間、邪魔が入る心配はないな!」
次にフィオナさんは、潜入ルートについて話し始めた。
「拠点の見取り図はないが、エンシェントの旦那の話だと、マラコーってのは、自分の研究室に引きこもってるタイプらしい。つまり一番奥の一番守りが固い場所にいるはずだ」
「ふむ。いかにも魔術師が好みそうな場所じゃのう」
エンシェントさんが退屈そうにあくびをしながら相槌を打つ。
「だから正面から堂々と乗り込むのは、愚の骨頂だ。罠も、番人も、山ほどいるだろうからな。狙うべきは裏口……いや、もっと意表を突く場所だ」
フィオナさんは立体地図をぐいっと拡大し、拠点である城の真上を指差した。
「――空から、行く」
「空、ですか?」
「ああ。どんな厳重な警備体制でも上空からの侵入までは想定していないことが多い。特に引きこもりの魔術師なら、なおさらな」
なるほど。
合理的で冒険者らしい大胆な発想だ。
「問題は、どうやって空から近づくか、だが……」
フィオナさんがうーんと唸る。
その時、私は静かに手を挙げた。
「あの……それなら私に心当たりがあります」
「ん? なんだい、リリ」
「うちのペットに送迎をお願いしてみようかと」
「ペット……? ああ、モフのことか! いや、いくらあいつがでかいからって、空は飛べないだろ!」
「いえ、モフではありません。もっと、こう、翼があって、空を飛ぶのが得意な子がいるんです。最近、うちの洞窟で療養しているんですけど」
私の言葉にフィオナさんは、きょとんとした。しかし、次の瞬間、彼女の顔から、さっと血の気が引いていく。
彼女は、思い出したのかもしれない。
この森に来た初日、私と出会う前に、一体、何がいたのかを。
「……お、おい……リリ……。まさか、あんたが言ってる『ペット』ってのは……」
「はい。バジリスクの、バッシーです」
私の悪気のない一言に、フィオナさんは、テーブルに突っ伏して動かなくなった。
「……もうやだ……。この作戦、絶対、ろくなことにならない……」
こうして私たちの奇想天外な潜入ミッションの大まかな計画は固まった。
作戦名:『|オペレーション・サイレント・スイーパー《静かなるお掃除大作戦》』
決行日:三日後、二つの月が、再び重なる夜。
輸送担当:バジリスクのバッシー。
結界担当:私。
突入・制圧担当:私と、フィオナさん。
留守番担当:アーマーさん、モフ、エンシェントさん、ドッペちゃん、お兄ちゃん。
「なあ、リリ。作戦が成功したら約束通り、南の海に行くんだろ?」
「ええ、もちろん。綺麗な砂浜で、のんびりしたいです」
「よし! じゃあ、その時は、私も付き合うぜ! 最高のバカンスにしようじゃないか!」
フィオナさんはニカッと笑った。
その笑顔につられて、私も思わず笑みがこぼれる。面倒な『お掃除』の、その先にある、まだ見ぬ『冒険』。
そう思えば、このミッションも、なんだか少しだけワクワクしてくるような気がした。




