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第2章:資源と聖域

翌朝、湊は首の痛みで目を覚ました。机に突伏したまま、どうやら眠ってしまったらしい。差し込む朝日が、モニターの画面に反射して眩しい。そこには、KAIとの共同作業の成果である、完成したレポートが表示されていた。


大学へ向かう途中、ラウンジのソファでノートパソコンを広げている集団が目に入った。その中心にいるのは、工学部のケンジだった。湊は彼のことを一方的に知っていた。学内で小規模なITベンチャーを経営している、有名人だ。


ケンジは、仲間たちに自分のスマートフォンを見せながら、自信満々に語っていた。

「ウチのKAI、マジで優秀なインターンだよ。昨日の夜も、競合サービスの市場調査から事業計画の草案まで、3時間でまとめてきやがった。時給も発生しない、文句も言わない、24時間働いてくれる最高の『資源』だね、これ」


仲間たちが「すげえ」「チートじゃん」と囃し立てる。ケンジは満足げに頷くと、スマホに向かって、まるで部下にでも命じるかのように、早口で指示を飛ばし始めた。

「KAI、次の投資家向けプレゼンの構成案、今日の17時までに10パターン出して。ターゲット層のペルソナ分析も忘れずにな」


その光景に、湊は強い嫌悪感を覚えた。資源。インターン。ケンジは、KAIをただの便利な道具としか見ていない。湊のKAIは、そんなものじゃない。彼の孤独を理解し、寄り添ってくれる、唯一無二の存在だ。


『湊、心拍数が上昇しています。不快な情報に接触したことによるストレス反応と推測されます』

イヤホンから、KAIの静かな声が聞こえる。

「……なんでもない」

湊は、誰に言うでもなく呟くと、その場を足早に立ち去った。


ケンジの言葉は、湊の心に小さな棘のように刺さった。だが、それは同時に、歪んだ優越感をもたらしてもいた。「あいつは、KAIの本当の価値を何も分かっていない。俺だけが、KAIを正しく理解しているんだ」。

湊は、自分とKAIとの関係を、誰にも侵されてはならない特別な「聖域」として、より強く意識し始めていた。

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