【第一話】転生の時
転生ものってやっぱりいい!
【第一話】 転生の時
まぶしい光の中で目を覚ました。
柔らかく、温かな布に包まれた感触。耳にはかすかに、優しい声と人の気配。
……ああ、俺は――
体を動かそうとするが、腕はわずかにしか動かず、指も握ることしかできない。
声を出そうとするも、漏れるのは情けないような泣き声。
<<なんだこの状態は!?>>
ぼんやりと、血の匂いと、剣の感触が脳裏をかすめた。
激しい戦い、鋭い気配、そして、確かに刃が……。
けれど今の体には、その時の傷ひとつ残っていない。
あるのは、小さく震える腕と、目もまともに開けられない情けない身体だけ。
<<……落ち着け。まずは状況を整理しろ>>
剣を握れない。立つことすらできない。
だが ――意識だけは、確かに"あの頃のまま"だった。
「うっほーこれが俺の息子かー。」
「ふふ。目のところは、アークにそっくりね。」
<<待て、息子だと…これはもしや…>>
「ふふ、もう泣き止んだわよ。賢い子ね」
「この子、絶対大物になるって。父さんの勘が言ってる!」
ぼんやりとした視界の中、顔を近づけてきたのは――若い男女。
優しげな目をした女の人と、少し間の抜けた笑みを浮かべる男の人だ。
<<……っは。どうやら、転生してしまったようだ⋯>>
落ち着いて状況を把握しようとするも、まだ視界はぼやけ、頭も霞がかっている。
だが、確かに聞き取れた。二人の声は、かつてのものとは異なる言語……だが、なぜか意味が分かる。
<<……言語変換か? いや、まるで脳に直接入ってくるような感覚だ>>
「ねえ、名前、もう決めてあるんでしょ?」
「おう。もちろんさ!」
男は胸を張って言った。
「この子の名前は『ルーク・グレイフォルド』!」
その名が空気に溶け込むと同時に、胸の奥に不思議な感覚が広がった。
まるでそれが、初めから自分に与えられるべき名だったかのように、すっと馴染んでいく。
「ふふ……ちゃんと、約束守ってくれたのね」
母――ルリスが、優しく微笑んで俺を覗き込む。
淡い色の瞳が、どこまでも深く温かい。
「当然だろ? ルリスの“ル”と、俺の“アーク”から“ーク”。それを合わせて、ルーク。俺たちの大事な初めての子だもんな」
シンプルだが、そこには確かな想いが込められていた。
かつて戦場で名を知られた俺の“ルーク”とは、まるで関係ない。
今のこの名は、両親が愛を込めてつけた――“新しい俺”のための名前なのだ。
<<……悪くない。いや、むしろ気に入った>>
「ルーク。あなたは、この世界で自由に生きていいのよ」
ルリスがそっと俺の小さな手を撫でる。
その手からは、戦場とは正反対の、温もりと穏やかさが伝わってくる。
「でもな、もし将来、剣を握るなら――父さん直伝の技、叩き込んでやるからな! はっはっは!」
アークが笑うたびに、腕の中で小さく揺れる。
けれどその笑顔は、何も押しつける気のない、ただひたすら息子を愛する父の顔だった。
今までの戦場では得られなかった、温かなものが胸に灯っているのを感じながら――
俺は静かに、微かに、生まれて初めての笑みを浮かべた。