間①:洞穿
「ああ──、お前の任務はここにいる生きている人の能力を確認すること」
本来はあいりが任務を発表するものだと思っていたが、この興醒めで見下すような声と話し方は、彼女に対する自分のイメージと全然違う。
まさか他にもわたしたちの任務を主宰している人がいるのか?
でもまずはこれを考えないでおこう、ただまさかこんなに早く任務が来るとは、まだ能力に十分に慣れていないというのに……
もしかしてこれも一つのチャンスかしら?
……
なるほど、ここからなら下の状況がすべて把握できる。だから任務が能力確認なのね。
そういえば、能力確認って具体的にどうすればいいの?
そう思った瞬間、突然鋭い寒さがまるで骨髄に染み込むように襲ってきた。
頭の中に自然と任務に関するインターフェースが浮かび上がる。
わたしはすぐに両手を地面についてひざまずき、思わず何度も息を弾ませた。
頭の中に自然と任務に関するインターフェースが浮かび上がる。
わたしはすぐに両手を地面についてひざまずき、思わず何度も息を弾ませた。
この寒さの感覚は一瞬だけだったけれど、まるで絶望を味わったかのようで、死さえも感じてしまった……
「何なの?この感覚……」
本当にびっくりしたわ、突然そんなことされるなんて。
その驚きが落ち着くと、ようやく任務の状況をしっかり確認し始めた。
ここから下層の任意の場所に自由に転移できるし、いつでも戻ってこられる。それでは、能力者の名前と能力の概要を一対一で対応させてください。
とても簡潔だけど、これがすべて。
それに加えて、心の中に絶対的な結論が浮かんだ。
もし確認すべき相手の能力と名前を対応させられなければ、私は死ぬ、というもの。
はあ……背中がさっきの感覚でびっしょり濡れちゃった。
気持ち悪い。お風呂入りたいなぁ~~~
え?どうしてわたしがまだこんなにのんびりしてるのかって?
だってわたしにとってこの任務は、——ちょっと簡単すぎるんだよ。
えっ?ちょっと待って、なんで下のこの男の子がわたしをじっと見てるの!?
もしかして下の人たち、わたしが見えちゃうの?それじゃパンツ全部見られちゃってるじゃない!
すぐに立ち上がったが、それでも丸見えの状態が続いていることに気づいて、慌てて前かがみになりスカートを押さえながら、ムッとして彼を睨みつけた。
何なのこの変態、見ないで!!!
ああ、恥ずかしくて死にたい……
……
後で確認したら、実は下の人にはわたしが見えていないことがわかって、はは……
なんだか空虚な苦笑いが出ちゃうわ……
まま、ちょうど下のみんなが揃ったみたいで、自己紹介を始める準備をしているようだ。
しっかり聞いてみよう。
なるほど、自己紹介の順番で言うとね:
半場和実さんの能力は獣人化
田寄長嶺さんの能力は2秒後の未来を予測
有瀬雪子さんの能力は血液操作
乙女兄妹の能力は念動力
忘川恋さんは能力なし
彼ら全員が本当のことを言っていると思うなら大間違いだわ。
だって私の能力「洞穿」が、彼らの嘘を残らずすべて見抜いていたもの。
まさかここに非能力者がいるとはね。
もちろん、忘川さんだけじゃなくて、あの変態の乙女さんのことも言ってるわ。
彼は自分の能力を念動力って言ってたけど、私の「洞穿」がその能力の真実を捉えていた。
彼も無能力者です。
他の人たちの能力と名前は、みんなが言った通りで、特に間違いはなかった。
今すぐ任務を提出してもいいんだけど、せっかくの体験だからもう少し続けてみよう。
田寄さんが体の熱くなって赤くなるのは能力の代償だって言ってたけど、私の「洞穿」は彼が能力を使ったからって教えてくれたの……
うーん……それって代償と変わらないじゃない?
なんで「洞穿」が反応したのかしら?
なんか変な不自然さを感じるけど、どこがって言えないよ。
それから田寄さんが椅子の何とかって言ってたのも、まさか彼も変態だのね!って思ったら、「洞穿」は彼が能力を使っている最中だって教えてくれた。
「……結局同じじゃない!」
能力を使うって言えばいいのに、嘘ついて椅子の話をするなんて、やっぱり変態じゃない!!
あと乙女さんが忘川さんと田寄さんに手裏剣とか言って騙してたわ。
彼って中二病なの?恥ずかしくないの?
……
この後に起こったことは、完全に予想外だったわ。
息を忘れるほど驚いた。
田寄さんの能力は2秒後の未来を予測するものだったはずなのに、なんと突然獣人化して半場さんを殺害し、その後駆けつけた有濑さんまで続けて殺してしまったの。
わたしは呆然とするしかなく、初めて目撃した殺人現場に思考が停止し、ただ茫然とその光景を見つめていた。
有瀬さんは、あんな重傷を負ったのに、死んでいなかった……
そして田寄さんが壁に投げつけられる音で、ようやく我に返った。
どうやらさっきのは乙女伊さんがやったらしい。
事態がこうなるとはまったく予想していなかったけど、これでますます興味が湧いてきた。
これからの展開だけじゃなく、田寄さんの本当の能力についてもね。
……間違うはずがないのに。
わたしの能力は嘘を迂回して真実に直結するのだから、どんな偽りも看破できるはずだ。
田寄さんが自己紹介で嘘をついた時も、彼の「未来予測」という言葉から即座に「2秒後の未来予測」という真実を看破していた。
なのに、どうして田寄さんは獣人化もできるの?
まさか多重能力者?
だとすれば、自分が語った能力のうち一つは確かに真実だったということ……
多重能力者なんているんだ……?任務を当初提出しなくて正解だったわ。
……
まぁ、実際はわたしが間違ってたのね。
乙女さんの神業のような推理と、田寄さんの黙認を経て、ようやく理解した。
田寄さんの能力は「能力借用」。
これってわたしのせいじゃないよ。
だって乙女さんのように細かく観察してないし、田寄さんの能力まで見抜けるわけない。
それに、田寄さんが言ったこともその時点では本当だったもの……
田寄さんには特殊任務があったのね。
道理で殺人なんて行為に及んだわけだ。
でもちょっと興味が湧いてきた、彼ら全員の元々の任務って、いったい何なんだろう?
……
あの噴水が落下した巨大な音で、わたしはよろめきそうになった。
生命の儚さを痛感させられたわ……田寄さんはあっけなく死んでしまった。
わたしの顔色も淀んだ水のようだったに違いない。
まさに最悪の体験だわ。
下のみんなを見ると、どの顔も相当に疲れ切っている。うん。
こんな体験二度としたくない。そう思いながら頭の中で彼らの能力を確認した。
田寄さんと半場さんが死んでしまったから、残る四人の能力を改めて確認しなければならなくなった。
なんだか胸が切なくなる……
「早く確認しちゃおう!」
残りの人たちの能力は間違いないはず。自分の頬をパンと叩いて気合を入れる。
乙女喰、能力なし
乙女伊、念動力
有瀬雪子、血液操作
忘川恋、能力なし
よし、これで完了。早くこの悪夢から解放されたいわ。
えっ……?間違ってたの?
わたしの意識は、深淵へと沈んでいった。