魔法と科学と女の子①
「昼ご飯はオムライスにでもすっか、いやけど金ねえなぁ、そうだ! スーパーワタリで材料を買おう!」
そんな理由で横幅二百メートルの川の向こうにあるスーパーワタリに行く為に青春真っ盛りの高校一年生が休日の昼前に鉄橋を歩いて行く。
何だか独り暮らしを始めてから凄く所帯染みていってる気がするが、まあ良いことだと諦める。
タイムセールなので速く行きたい刻哉は歩く速度をちょっと上げる。
自転車に乗っている主婦を見て、自転車買おうかなぁ、何て思っているその時だった。
「ねえ」
猫なで声の女の子の声が聞こえた。
今ここで「何?」とか言ってしまうと怒涛の勧誘の嵐に巻き込まれるので刻哉は無視する。
「ねえ!」
無視。
心なしか歩くスピードも上がる。
「ねえってば!」
無視。
意識的に歩くスピードを上げる。
「ねえって言ってんでしょうがァ!」
凄まじい怒りを感じて後ろを振り返る。
ブラウンの瞳を持った端正に整った顔の刻哉と同じ高校一年生の少女――水上水奈 (みずかみみずな) は手を刻哉に向けて水を出す。
水鉄砲くらいなら可愛いもんだが、少女の水は違う。
水圧で限界まで鍛えられた水は水の刀と化す。
刻哉は慌てて左腕を突き出す。
刻哉の左掌が金色の光で覆われたと同時。
ズシャア! 刻哉の身体は左腕ごと切り裂かれず――水を弾き飛ばした。
水は地面に着く前に空気中に霧散してしまう。
水奈は満足げに頷いてから、
「やっぱりあんた、私の学校に転校しに来なさいよ」
これだった。
水奈の言う私の学校とは魔法遣い育成学校の事である。
科学の力で蘇った魔法のプロフェッショナルを育成する学校だ。
今、世界中でそんな学校が急速に増えている。
理由は核と同じ。
否、核より酷い。
洗練された魔法遣いは核をも上回る力を持つ。
それだけで国の発言力がどれだけ上がるかを考えてもらえれば世界中で魔法遣い専門の学校が急速に増える程に、世界中躍起になっているのが分かるだろう。
「私も超能力科が十人だと寂しいのねぇ~」
少女は世間話をするように言う。
超能力――科学で完全には解明されていないが科学によって認知されたオカルトの事である。
科と言うのは文字通り、学科の事だ。
超能力の学科だ。
勿論超能力の修行ばかりしている訳ではない。
一応、魔法遣い育成学校の偏差値は六十である。
「無理無理。俺何かが行ったって落ちこぼれるだけだって」
「何で分かんのよ。そんな事。あんたは私のダイヤモンドも真っ二つに切る水圧カッターを弾き飛ばしたのよ? それだけでも充分特待生になれるわよ?」
ついこの間、可愛い子からしつこい子へのランクアップを果たした少女はやはり何か辻褄の合った理由を言わなければ解放してくれそうにない。
刻哉は手を上げて降参する。
「わぁったよ。理由を言や良いんだろ?」
水奈が訝しげな顔をして理由を言えと顎をしゃくる。
「ほら、全ての魔法に超能力が俺の力の『一端』で無効化されちまったらこの科学都市は戦争するかもしんねえんだぞ?」
物騒な事を言う刻哉に水奈は鼻で笑う。
「はっ、そんな訳ないでしょ。やるんならもうやってるわよ。科学都市の技術なら世界統一なんて楽勝でしょ?」
確かに、と刻哉は内心頷く。
科学都市は、魔法を科学で蘇えらせた初めての都市であり、世界の技術の先駆けと言っても良い。
と言っても、技術は提供しない。
物を売るだけだ。
最近世界の命懸けの抵抗――「そっちに輸出なんてしねえからな!」と言う言葉に渋々、魔法科学の最先端技術を教えたらしい。
そろそろ諦めてもらいたい刻哉は、最後の手段を使う。
「何か奢るから。俺の事諦めてくんない?」
「嫌」
即答だった。
「つーか何でそこまでご執心?」
「私は才能が潰れるのを見たくないの」
刻哉は疲れきったお父さんのように一言。
「ああ、そう」
そんな刻哉に水奈は言う。
「キ、キスくらいならしてあげてもいいよの? あ! 勿論、その先はあれだけ、ど……ん……」
顔を真っ赤にしながら言う水奈は『外側』だけ見れば鼻血物かもしれないが『裏側』を考えると涎も出ない。
何か言ってやろうとした直後に大事な事を思い出した。
こんな所で女の子相手にかまけている暇はないのだ。
「わりぃ。俺、スーパーワタリのタイムセールに行かなきゃなんねえから」
時速六十キロのスピードで刻哉は走って行った。
重要度がスーパーワタリのタイムセールに負けたのが悔しかっのか怒り浸透の水奈が怒鳴る。
「次こそは「入れて下さい水奈様」って言わしてみせるからね! 首を洗って待っておきなさい!」
ああ、これは何時まで続くんだろう?




