別れと出会いの春 1
まだ涼しい風が吹きつける穏やかな春の朝。そんな穏やかなはずの1日の始まりなのに、僕は暗い表情を浮かべている。
むしろ、春だからこそ僕は気分が暗くなっている……とも言える。
こんな僕の話を聞かせたところでなんの面白味もないわけだけど、少しだけ吐き出させてほしい。
あれは、もう2年も前のことかな。僕には、高3の時から3年半付き合ってきた彼女がいたんだ。
見た目も性格も何もかもが綺麗で、可愛くて、対する僕はまぁ平々凡々な人間ではあったんだけど、それでもお互いに愛し合っていた、はずだった。
それなのに2年前の春、桜舞う公園で彼女から告げられたのは別れの言葉だった。
彼女曰く、バンドマンとして活動してる僕といても将来が見出せないんだって。そんなこと、付き合う時から僕はバンドで生きてくって言って応援してくれてたんだから言われると思ってもみなくて。
本当だったら彼女のこと引き止めたかったのに、僕はよっぽどバンドのことが理由で別れられるのが悲しかったのか何も言えなくて。
そんな僕を横目に彼女は消えていった。
連絡先も何もかも消されて、彼女の思い出は僕が住むアパートの中に残るだけ。荷物はなぜかほとんど置いていったから、大体は処分したけど思い入れがある物は捨てられずに残してある。
それ以来、僕は恋愛なんてしないと決めてバンド活動に打ち込んでいった。それはもう鬼気迫る勢いでね?
だけど、中々芽は出なくてさ。メジャーデビューのメの字もまだ見えないけど、それでも仲間はついてきてくれてる。
そんな、恋愛を諦めたバンド人間の僕はやっぱり春には気分が落ちる。嫌でも別れた彼女の顔が浮かんでくるんだ。
あなたが戻ってくることなんてありえないはずなのにね?
僕は、重くなってしまった腰を無理やり上げて洗面所で顔を洗う。その水の冷たさすら、今の僕の心を表しているようで。
ずっと僕の中の時間は、あの時に止まったまま動いてなどいないんだ。
僕のどうでもいい昔話は置いておいて、気持ちが落ちていようと世界は変わらず進んでいくわけで。今日もライブを控えている僕は、重い足取りを動かしてライブハウスへと向かう。
「おせーぞ、晴」
「ごめんね、雪人」
僕に一番に声をかけてくれたのは、ベースの白石 雪人。僕こと、新井 晴が結成したバンドで最初からずっとついてきてくれてる幼馴染。
雪人がいなかったら、2年前のあの時でバンドは辞めてたかもしれないってくらいに大切な存在。
あ、大切っていうのはあくまで仲間としてだからね、勘違いはしないで欲しいんだけど。
そんな僕と先に待っててくれたベースの雪人、あともう中で準備し始めてるだろうドラムの小森 風花の3人でやってるこのバンド。僕にはここに居場所があるだけで頑張っていける。
そう、思い込んでいるんだ。
そんなことを考えているとステージから風花が戻ってきた。
「おっ!晴くんー?遅かったねぇ……あ、そっか」
「ん?」
「今年もこの季節がやってきたんだもんね、むしろよく来てくれたよ晴くん」
「ありがと、風花。でも今の僕の居場所、生きる意味はここだからね。来ないなんて考えられないよ」
「そっか」
「おいおい?ライブ前にそんなしんみりすんなよなぁ?気合い入れてく、ぞっと!」
少し重い空気が流れていた控室の雰囲気を変えるかのように雪人は僕の背中を叩く。
その痛みで、僕の気持ちは冷静さを取り戻した。普段通りのテンションに戻れた僕は、改めて2人に声をかける。
「雪人、風花。今日も気合い入れていこう!盛り上がってくぞ!!」
「おうよ!!」
「もちろん!!」
こうして、僕達のワンマンライブが……新たな出会いの幕が上がる。
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