表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/46

〖花蕾の幕間〗第一話:【疾風の鎌蟲】

本編の舞台裏、つまり番外編です。

 ————ベルギア一行が旧都の調査に勤しんでいた同刻、『スーゼファルカ』。


 『レナ』の街の早朝は、大変心地の良いものだ。谷から訪れる北風は乾燥して冷たくも、同時に爽やか気持ちを運んできてくれる。

 商人達は気分の良いうちに店の支度を済ませる。後は間もなく訪れるであろう、()()を快く迎えるだけだ。


「おはよう、マリヤさん!!!」


「いらっしゃい!今日も新鮮な野菜が入ってるわよ!!」


 『スヴァボーダ城』メイド長、マリヤ・セドフ——それが商人達が太客と呼ぶ人物の称号と名である。

 彼女の美麗な佇まいと言動、あらゆる分野に精通する明哲さは、街の者達から好かれるには十分過ぎる理由だった。


「皆様、朝早くからご苦労様です、本日のお夕食分の食材を買い足したいのですが……」


 マリヤが終わりまで言うより先に、商人達は腕を振るい自慢の魚やら野菜やらを売り付けた。彼女と商人達の付き合いは長いため、お互いに欲している物がすぐに分かってしまうのだ。


「あら…………」


 あっという間に満杯になる買い物かご、その中身はどれも極上の品である。


「うふふ、どうもありがとう御座います」


 持ってきた大金を余すこと無く払い、マリヤは街を後にする。——今後とも御贔屓に。一方の商人達は皆、彼女の背中に語り掛けた。


「ムフフ……マリヤさん、今日こそ私の()()()()()で……」


「間に合ってますわ」


 すり寄る例の変態店主を華麗に躱し、マリヤは城まで真っすぐに戻って行くのであった。




 ——十数分後の『スヴァボーダ城』、メイド長更衣室にて。


(まったく、上品なお姉様演じんのも楽じゃないよ)


 マリヤは心の中で呟く。同時にロングスカートのメイド服が床にバサッと落とされる。さらに、二枚の()()()()もひらひらと舞い落ちる。

 下着姿の彼女は実に細身(要は貧乳)で、完璧に思われた肉体美は偽りであった——いやこの場合、()()の存在自体が偽りである、と言った方が正しいのだろう。


(デカ過ぎるでしょ()()()の、私への当てつけか?)


 脱ぎ捨てたメイド服から魔晶石と仮面を取り出し、偽物のマリヤは()()()の衣服に着替えた。


(ま、()()成功したしどーでもいっか!)


 仮面越しでも分かる、特徴的な三白眼を持った侵入者。彼女こそ————第九位【卿相(デスティーノ)】、密偵長ライン・ドルシュ(【疾風の鎌蟲】)だった。


(風神とその主戦力が国を離れてる今……もう誰も私を止められないッ!!!)


 にわかに歪み出す空間——。更衣室を飛び出したラインの肉体は、城の廊下の風景に文字通り()()()()。監視の目を掻い潜り、彼女が向かったのは


(アレは確か、()()()にあるんだったね?)


 『スーゼファルカ』の国家機密が山のように眠るベルギアの執務室だった。丁度、扉の前には巡回を終えた執事長が居る。手間取らずに鍵を入手出来る絶好のチャンスだ。

 疾風(はやて)の如く伸ばされたラインの指先は狙いを定め、鍵束の中からたった一つを(えぐ)り取る。


(ヒュッ……)


「……ん…風?窓は全て閉まっている筈ですが…………」


 執事長は不自然に感じながらも、一枚一枚の窓を確認するために執務室前から去って行った。


(あーあ、おバカな爺さんだ……キミ達の仕事に漏れなんか無いのに)


 彼の姿が見えなくなったのを確認し、ラインは目の前の扉をそーっと解錠する。——ここに至るまで僅か数十秒。第九位にしてこの実力、【卿相(デスティーノ)】とは末恐ろしいものだ。


(さて、()()はどこに仕舞われてるのかな?)


 ラインに課された任務はただ一つ、彼女がアレと呼ぶ品を回収すること。


(にしても色々あるなー……この機会に乗じたいとこだけど…………)


 不必要な盗みを働いたら、『スーゼファルカ』と『ヴァリーツェ』の衝突は避けられないものとなる。——【闇の女帝】の名誉にかけて、それだけはあってはならない。

 ラインは思いとどまり、例のブツだけを求めてあちこちを物色した。


(あったあった、これじゃない?)


 絵画の裏に隠された棚、そこからラインが見つけ出したのは小さな箱だった。静かに興奮する彼女はすぐに魔晶石を取り出し連絡を入れる。


「…………なんだ貴女か、上手く進んでいるのだろうな?」


 魔晶石から応じる声は低くしゃがれていて、彼女の同胞とやらが老年の男性であることが伺える。——彼もまた、【卿相(デスティーノ)】であるのだろうか。


「現地で苦労してる仲間にそんな言い方は無いと思うんだけど」


 ラインはぶつくさと文句を言う。しかし任務は任務、彼女は自身が手に入れた箱について同胞に報告をした。


「ベルギア自ら結界を張り、他の誰にも開けられぬよう厳重に管理している……間違いない、これが我々の欲している風神の<()()>だ」


 魔晶石を握る方と反対の手で箱を左右に揺らすライン。中ではそれなりに密度ある物体が転がる音がする。


「現風神は<啓示>を毛嫌いしておる、(わし)はそれを餌に彼と()()するつもりだ……箱のまま持って帰って来るが良い、よくやったぞドルシュ」


 【ハーデース】がラインを『スーゼファルカ』に派遣したのは、風神の<啓示>を盗み出すためであった。彼等が何故<啓示>を必要としたのか、それを使って何をしようと言うのか————全てを知るのは、【闇の女帝】と十二人の【卿相(デスティーノ)】のみである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ