第十九話:上空での戦い
<強欲>が腕を引いたことにより、嵐の中に確かな一本道が出来上がった。その道は『グラニーツァ』に通ずるとベルギアは言うが——
「うっ……どこまで続いてるのよこれ……」
全長百数メートルに及ぶ巨体なだけあって、腕一つとっても相当な長さがあった。
それに、<強欲>もみすみす探索隊の侵入を許さなかった。
「あれは……?ベルギア様!!!」
雲の様子に異変を感じたナシュイは、真っ先にベルギアに報告する。
「……総員!臨戦態勢に入れッッッ!!!」
雲が割れ、無数の腕が暴風とともに舞い降りた。閉じられた両手の中に、他の出迎人たちを連れて。
「ガーゴイル?何故こんなところにッッ!!!」
開かれた掌から現れたのは、翼を生やした彫刻の怪物、ガーゴイルだった。
「うわあ!!!何あれ気持ち悪い!!!!!」
そのグロテスクな造形に、御琴をはじめとした数人の隊員は萎縮した。
「天空都市のかつての守護獣だ、今となっては、その存在意義も失われてしまったがな……」
大小さまざまなガーゴイルたちが牙を剥き、眼光鋭く探索隊を射すくめる。
「狼狽たえるな!!!敵の手に落ちた者共に情けなど無用!一斉攻撃だ!!!!」
ベルギアは先陣を切り、ガーゴイルの群れの中に飛び込んで行った。
「はああぁあぁッッッ…………!!!」
得意の切断技で、迫り来るガーゴイルたちを一瞬にして粉砕するベルギア。
「射撃用意、撃てぇッッッ!!!!!」
続いて弓隊長のナシュイが号令を出した。——彼女の弓を引く手に一切の迷いは無い。
次々に放たれる風の矢は、ガーゴイルたちの翼を容赦無く貫いた。
(ゴァアァア…………ッッッ!!!)
バランスを崩した怪物たちは谷底まで真っ逆さまだった。
「見捨てられて、こき使われて、ガーゴイルたちも苦しいと思う…………御琴、楽に逝かせてあげよ」
「うん、分かった」
相手は石造りの彫刻、御琴はいつもより硬めの氷塊を作り出した。それにホノカが火球を打ち付け、氷の移動速度に拍車がかかる。
相容入れない炎と氷の力、二人はその友情をもって合体技をものにした。
(ボッ…………ボォォォォ!!)
ホノカの掌から小さな火球が放たれた。御琴に比べれば未熟な魔法だが、その<情熱>の強さは彼女にも負けない。
(パキィィンッッッ!!!ビュゴォオオ!!!)
猛スピードで飛ぶ氷塊が、ガーゴイルたちの眉間に命中した。唸り声一つ上げずに、そっと静かに目を閉じ、彼等のひび割れた体はバラバラになった。
「…………殺しは初めてかい?」
忽然に姿を現したラードゥがホノカの肩を掴んだ。らしからぬ慎重な面持ちに気圧されて、ホノカは素直に頷く。
「そっか……嫌なら下がってなよ、残りは俺が殺るからさ」
ラードゥは懐からナイフを数本取り出すと、刃に風をまとわせて力強く投げた。
「はは、無事命中!」
ガーゴイルの首根っこに深く刺さったナイフを見て、すまし顔をするラードゥ。しかし、ナイフを握るその手は微かに震えていた。
「ラードとナシュイ……やっぱりお似合いだね」
唐突な御琴の耳打ちに、ラードゥは呆気に取られた。しかし体裁を繕うため、すぐさま反論の姿勢に移った。
「なっ!何を言ってるんだい?……それに俺はラードじゃない、ラードゥだ!何べんも言わせないでくれ!!!」
——耳の先がほんのり赤く染まっているのを、彼は隠し切れていなかった。
「ごめんごめん!あ、この波で最後じゃないかな?私とホノカも頑張るから、お互い頑張ろ?」
「そうだねぇ……俺も殺し合いなんて大っ嫌いだしさ、早いとこ片付けよっか」
うわべは取っ付きにくそうに見えるラードゥだが、時折見せる純粋さは——誰かさんと瓜二つだった。
各面々の活躍もあり、ガーゴイルたちは着実に数を減らしていった。
為す術を失ったのか、<強欲>の猛攻も止み、ベルギア一行から歓声が上がる。
「フハハハハ!やっと精魂尽きたか!!!」
空全体に喜びの渦が巻き起こる。——しかし喜ぶにはまだ早い、とベルギアは皆に告げた。
「上を見てみろ!!!『グラニーツァ』はもう目の前だぞッッッ!!!!!」




