第十三話:そのままのきみで
「はい」
沈黙を破ったのはよそ者の少女——御琴だった。その華奢な腕を、芯が入ったかのように真っすぐ伸ばしていた。人々の視線は一斉に御琴に集まる。
「……誰だ?あの子」
大方観光客であろう彼女が、何故いの一番に立候補したのか、スーゼファルカ人たちには理解が出来なかった。
「私も、是非ご同行させては頂けないでしょうか」
沈黙のさなか、もう一人のの少女が、御琴に続いて立ち上がる。
(当事国民の私が、異国人に倣うように立候補するのも面目無い話だ……だが、せめてもの罪滅ぼしになれば…………)
——その少女は【ディエーヴァ】の二番走者、ベルギアに矢を放った少女だった。
「お前は……分かった、今名乗り上げた二人は、後で俺様の執務室で話そう!お前たち、案内してやってくれ!」
ベルギアの部下に連れられ、御琴と少女は歩き出す。
「あ!待ってよ御琴!!」
いくらか悩んだ末、ホノカもまた立候補し、三人の少女は行動を共にすることになった。また執務室に向かう途中、スーゼファルカ人の少女は、ベルギアの言葉を小耳に挟んだ。
「…………皆の気持ちも分かる!改めて言うが、参加も不参加もお前たちの自由だ!もしもの時は……俺様が他の策を講じる!まずは自分自身、己の大切な人を第一に考えるのだぞ!!!」
これ程までに寛大で、慈悲深い君主は他に存在し得えないだろう。そんなベルギアに矢を放つなど、己の信念にも家名にも泥を塗る行為だ。————少女は自嘲気味にため息をつくのだった
「ねえねえ!君、名前は?」
灰みを帯びた金髪に、やや鋭い目つき、自分たちより三つか四つ年上に見える少女。彼女の凛とした立ち振る舞いに、御琴は惚れ惚れしていた。
「ナシュイ・リリスだ、よろしく頼む」
颯爽と答えるナシュイ。——これはいける、そう確信した御琴は食いつくように、べらべらと彼女に話しかけ始めた。
「ねね!ナシュイは目玉焼きの黄身はかためとやわらかめどっち派?それとも半熟派!?」
「私はやわらかい方が好きだ、黄身そのままの味がするからな」
嫌な顔一つせずにナシュイは答える。それを良いことに、御琴は延々質問攻めをした。
「御琴、あんまりナシュイを困らせないの」
しょうもない二択を迫り続ける御琴の頬を引っ張り、ホノカは自身の後ろへと連れ戻した。
「ごめんなさい、この子ちょっとお喋りだから……」
「ちょっと!まだ話は終わって……むぐっ!」
御琴は再び話を振ろうとするも、ホノカに口を塞がれてしまい、黙り込む他なかった。
「……君たちは面白いな、明るい知人が出来て私も嬉しいよ」
「あはは……どうも……」
ナシュイは純粋に思ったことを口にしただけだった。だが、彼女の落ち着いた印象が災い、本来の意図とは裏腹にホノカには伝わってしまったらしい。三人の間に何とも言えない空気が流れた。
「………………」
その空気感を保ったまま、三人はベルギアの執務室に到着した。椅子に腰かけ、ホノカは指を組みながら、両方の人差し指を付けたり離したりする。——これはホノカが気まずいときに良くする仕草であった。
「二人は『スーゼファルカ』に初めて来たのか?」
「そ、そうよ!色々事情があって……」
ナシュイに突然話しかけられ、ホノカは一驚を喫した。ナシュイはその様子に戸惑いを見せ、肩を落としながら小さくため息をこぼした。
「すまない、私はあまり人付き合いが得意な方では無くてな……」
「私が黙ったらこうだもんね!」
容赦なく相槌を打つ御琴、すぐさまホノカが止めに入ろうとする。しかし、それより先に
「でもさ、別に無理しなくてもいいんじゃない?それで自分を追い込んだら本末転倒だもん!」
御琴が立ち上がり、ナシュイの手を取りながら微笑んだ。
「だから、私の前ではそのままのナシュイでいて欲しいな!心を許し合ってこその友達でしょ?」
その純粋な笑顔は、ナシュイにとってあまりにも眩しいものだった。彼女の周りに集まるのは、彼女の才能と将来性にすり寄って来る、打算的な人物ばかり。
御琴は、そんな彼女が初めて出会うタイプの人間だった。異国人故、内情を知らないというのもあるだろうが、彼女とは飾り気なくやって行ける気がした。
「友達……か…………」
「あれ?もしかして……距離の詰め方間違えちゃった?」
「ふふっ……」
気の抜けた表情で首を傾げる御琴の様子がおかしかったため、ナシュイは笑いをこらえきれなかった。笑いの輪にホノカも加わり、わだかまりの解けた三人は取り留めもない会話を楽しんだ。
「お、随分仲良くやれているようではないか!」
そうこうしているうちに、被災者の精神的なサポートを終えたベルギアが執務室に入ってきた。彼はドスンと椅子に尻を置き、三人に今回の目標を端的に述べた。
「率直に言おう!お前たちには……旧都『グラニーツァ』に向かってもらう!!!」




