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なんですって!間違えられた山田家

作者: 宮地沙弥

短いです。読みに来てくれてありがとうございます。

 ファンファーレが鳴り、紙吹雪が舞っている。


「おっめでとうございま〜す」


 某コメディアンのような声で祝われた。


「一体何が」

「お父さんお父さんどうしましょう」

「何これ」

「ドッキリ?」


 四人で夕飯を食べていた私たちは固まった。何が何だかわからないでいる私たちに謎の声は更に告げた。内容を理解した時にその声に反論する時間はほとんど残されていなかった。


「ご希望通り、あなたたちご一家を誰も知らない、漫画の世界のモブとして夜逃げのOKが出ました〜!それでは早速行きます!必要なものもお家も全部揃っています。新しい世界での生活をお楽しみください!鈴木さんご一家万歳!」

「うちは山田だぁ〜!」


 声を上げた時、『間違えたっ、反対側だった!』という焦る声が私達家族の耳に届いた。








 私たちの身に何が起きたか。謎の声の言葉を聞いて理解した。とりあえず救われたと思ったのが今いる場所が変わらぬ我が家であったこと。つまりそれって、鈴木さんご一家に我が家があてがわれる予定だったってことなのだろう。なんかムカつく。

 私は案外強靭な精神の持ち主だったようで、さっきのことが現実であると理解できた。弟と両親はどうだろう。

 両親は風景が変わらず我が家であったことに安堵し、先ほどの出来事は夢でも見たという風に処理したようだ。弟は考え込んでいる。でもきっと順応性が最も高いのは弟に違いない。


 鈴木さんが夜逃げをしようとしていたのはそんな噂が出ていたからそこに驚きはない。そして夜逃げをし損ねたらしいというのもまあそれもまた運命なのだろう。私たちがここに来てしまったことと同じように。

 ちなみに鈴木さんちと我が家のあいだには空き家が2軒挟まっている。 




 ところで。



 漫画の世界。どの漫画よ!曖昧すぎる情報に頭が痛い。


 夜が明け、一見いつも通りの朝。


 いつもかけてある場所にある制服が変わっていた。なんか見たことある気がする。学校の場所がわからない。弟も同じだったようで二人でスマホで調べ制服から学校を割り出し、学校の位置を探した。

 少女漫画の世界だった。

 作者の趣味を疑う……その名を、『元祖プリズム学園高等部』 


「地球が滅びそうな漫画の世界じゃなくてよかったね」 

「あーこれか。そういや、この漫画この地域が作者の出身地だって言うので舞台になってるんだったよな」

「限りなく現実に近くてよかったね」

「でも俺一回しか読んだことない」

「私だって借りてたった一回読んだだけだよ」

「持ってないのかよ。予備知識入れときたかったんだけどな」

「なんかわけのわからないのに巻き込まれたら嫌だしね」

「学校行こうか」

「おう」


 安心した部分もあるが不安が尽きない。お互い、口調がいつもより早口になっている。 

 この状況って、知らない人の中に放り込まれたということ…になる?

 お父さんとお母さんは大丈夫だろうか。モブらしいからストーリーはまるっきり外から見る形で過ごせるのだろう。少女漫画のストーリーに関わる気はない。

 そういうところは私も弟もドライである。

      

 二人で並んで通学するなんて小学生の時以来だ。


「私達転校生という扱いなのかしら」

「二人揃ってってなるとそうなんじゃね」

「手続きに寄らなきゃよね」

「お互い勉強得意で良かったな」

「そうね」

「香織が姉ちゃんでよかった」

「智也が弟でよかったよ」


 年子の私たちは仲のいい姉弟だ。それだけでも今幸せを感じている。


「ねえちょっといい?」


 ちょっとした不安をこぼす。


「今はいわゆるモブだらけじゃない?でも、これから学校に行くと、きっといわゆる主人公その他、漫画のキャラクター達が生身の人間の姿になって動き回っているわけよね。まさかと思うけど、漫画の絵みたいに顔の1/3が目だとか頭が大きいだとか足が異様に長いとか。漫画なら許せるけどそれがそのまま人間になったら恐ろしいと思うんだけど。そんなことないよね?」

「何それ。俺そんなの見せられたら即転校決意するかも。恐怖で普通でいられないわ」

「あと関わらないようにしたくても、見た目普通の人間だったらメインの人達とかだって気づかないかもしれない。だって名前だってちゃんと覚えてなければ特徴だってそんなにはっきり記憶に残ってないし」

「髪が黄色とか赤茶色とかピンクとか青とか漫画の色のまんまかもしれないし、その辺を期待してみる感じでどう?」

「そうであってもそうでなくても色々不安だわ」


 すれ違う人の顔ぶれを見る限り、少女漫画の世界とは言っても見知った舞台のせいで知った顔が普通に並んでいる。パラレルワールドと言われた方がしっくりくる。でも自分たちを知っている人がいないというのが、いつもは挨拶くらいする人たちもただ通り過ぎるだけの存在になってしまっていることで実感する。

 お父さんとお母さんは大丈夫だろうか。

 引っ越してきましたっていうご挨拶をご近所にするべきだったのだろうが昨日の状態では時間的にもとてもできるものではなかった。  

 お母さんはゴミ捨てで近所のおばさん達に会わなかったのだろうか。お父さんは今頃会社で途方に暮れていないだろうか。

 早退した方がいいのかな。変な時間にお父さんやお母さんから電話がかかってきたりするかもしれないし。

 心配事と不安が尽きない。


「香織、大丈夫だって。どうにかなるしどうにかするしかないんだから。本当にやばかったら二人とも家に帰るに決まってるから」


 お父さんとお母さんは一体どういう設定になっているんだろう。二人とも中途採用の社員なのかな。同じところで同じ仕事ができてるといいな。

 うちは学校に近いため、お父さんとお母さんの方が早く家を出るのだ。


「本当に今日が登校初日だったら、いつもの時間じゃなくてもうちょっと早く出なきゃいけなかったのかな」   

「そうだとしても今更だよね。そんなとこまで気を回せるような状況じゃなかったじゃん。俺たち上出来だと思うよ」


 二人で話しながら歩いていたらあっという間に着いてしまった。

 見知った顔だらけのはずなのに誰とも挨拶しないと言うこの状態に心の中でひっそりため息をついた。

 その見知った顔の中に元の世界のクラスメイトも学校の先生も揃っていたことは、少しばかり私の心を安堵させるとともに喪失感と重さをもたらした。  

 


 事務室で今日のぶんの手続きをしてそれぞれの教室に案内された。

 校内は私の知る学校のままだった。学校名が書かれている表札だけが私にとって見覚えのないふざけた名前が書いてあるだけだった。 

 同じであるがゆえになおさら失ったものの大きさを感じる。

 そこそこ使い込んだはずの教科書が新品になっている。上履きも体操着も新しいのが逆に寂しさを感じさせる。 

 迷子にならずに済むことを喜ばしいと思うことにしよう。漫画に出てくるキャラクター以外は私の知った名前と同じであると信じたいところだし。きっと友達だった子達の性格も変わらないはずだ。

 だからまた友達になれるよね。

 ここに来て良かったと思えることがこれから出てくるはず。私の人生これからの方が長いのだからへこんでなんかいられない。慣れることに力を尽くそう。


 私達家族の新生活が始まる。

 本当にどうなることやら。


  

読んでくれてありがとうございました!

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