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制作:ビデオカメラ

 酒場を後にし、バスに乗って帰路に就く。

 手痛い出費だ。全て合わせて十一万円を吐き出している。

 安定収入を捨てたんだ。絶対にダンジョンビデオカメラの製作を成功させねばならない!

 

 1LDKの我が家に帰りついた俺は日記の設計図を座卓に広げる。別の小さなテーブルに材料を置いて製作の準備完了。

 作業前に晩御飯を食べよう。もう十八時だ。

 行儀は悪いが、冷食のカツ丼をもぐもぐと食べながら日記の設計図を眺める。

 どうやらビデオカメラを一度バラし、半田ごてで電子回路の特定の場所に魔法陣を刻み、その魔法陣に魔石を水で溶いた魔溶液を流し込めばできると書いてある。

 十数ページにわたって加工の仕方が書かれているが一ページに大きな図解が一つ乗っているだけなので作業量はそんなに多くないようだ。

 カツ丼を食べて元気いっぱいになったところで作業開始。




「ふっ、ふっ、くのぉ!」


 悲報、クソ難しい。魔法陣がまず小さい。一本の線を引くだけで死ぬほど時間がかかる。開始から四時間が経つのに合計七十四本ある線と図形が半分も引けてない。神経も擦り減ってきつくなってきたので風呂に入って仕切り直し。

 汗を流してリラックスしてもう一度挑む。 


「ふー…、フー…」


 辛い。




 日付は変わり、翌日の午前三時。

 やっと掘り込みが終わった。あとは魔溶液を流し込むだけだ。ここで事件発生。集中しすぎて魔溶液を作るのを忘れていたのである。

 テーブルに置いた中サイズの魔石をボウルに入れて放置する。野球ボールを二回りぐらい大きくしたサイズのそれは、ブスブスと音を立てて少しずつ少しずつ溶けて混ざっていく。日記の指示通りに処理しているが大丈夫なんだろうな、これ。

 とにかく、魔石が溶けるまで何もできないので寝ることにする。おやすみ。


 明朝、といっても作業完了したときには日付が変わっていたので五時間後ぐらい。

 寝室からLDKに行くとボウルの中身が淡い緑色に輝く液体になっていた。これが魔溶液なんだろう。寝間着から私服に着替えて作業を開始する。

 だが魔法陣のサイズが小さすぎるせいで筆なんかは全く使えない、使ってしまえば一瞬で液体が垂れて電子部品が液濡れになるだろう。

 ゆえにキッチンから爪楊枝を持ってきて、ほんの少しずつ一滴よりも少ない量を魔法陣に垂らす。根気のいる作業の連続だ。十一万も使ってなかったら投げ出していたに違いない。

 ともかく、これで…!


「終わった…! 疲れた!」


 

 完成である! あとはこれをダンジョンに持って行って試すだけ…、あれ?


「俺、ダンジョンに入れないじゃん」


 決定的なミスを犯していることに今、気づいたのだった。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 一縷の望みを託しにやってきた三沢ビルの酒場。昨日ぶり二回目である。

 俺は資格がないのでダンジョンに入れない、だったら酒場で依頼を出せばいいのではと考えたのだ。

 ドアを開け、店内を見渡す。昨日の店員さんがモップ片手に掃除をしていた。


「昨日ぶりですね。もしかして魔石に不具合が?」


「いえ、依頼をと思いまして」


「あら、そうですか。少々お待ちくださいね」


 店員さんはモップを持ったまま昨日のようにカウンターの奥に消えた。俺も昨日と同じく勝手に座らせてもらおう。

 

「お待たせしました。ご依頼とのことで?」


 これサービスです、とカウンターにコーヒーが置かれた。ありがたい。


「お聞きしたいんですが依頼は特定の行動をお願いすることが出来るのですか?」


「可能ですよ、大手企業が新作の武器を有名ハイランダーにモニターしてもらうことはよくありますから」


「それはよかった」


 コーヒーを一口啜る、酸味が強い。豆はケニアかな?


「私もアーティファクトがダンジョンで使えるか試していただきたいんです」


「アーティファクトですか? 失礼ですがダンジョンに潜れない貴方がそのようなものを持っていることが信じられませんね」


「ええ、そうですよね」


 グイっとコーヒーを飲み干してカップを横に避ける。

 そして持参した鞄の中から昨日夜なべをして作ったビデオカメラをカウンターに乗せる。


「ダンジョンで使えるビデオカメラです」


 店員さんが硬直した。

 世の常識としてそんなことはあり得ない。電子機器はダンジョンでは無力なのだ。

 だが、この男の言うことが本当なら? 世界が震撼する事件に発展する。頭の中身はこんなところだろうか?

 

「分かりました、ええ、分かりました。貴方のおっしゃることが本当だと仮定しましょう。これをどうする御積もりで?」


「え? Btubeの撮影機材にしようかと」


「ビィっ!?」


 ダンっ、とカウンターがぶっ壊れる勢いで両手を店員さんが叩きつける。


「アナタ、アナタ、アナタ! もし本当なら国宝級のアーティファクトをBtubeの撮影機材ですって!?」


「元々その腹積もりで買ったんですし」


「買った? 買ったっておっしゃいましたか? その業者の名前を教えてください! 私が説教をします!」


「すぐそこのヨドバ〇ですけど」


「ふざけるのも大概にしてください! ただの家電量販店にアーティファクトが売ってるわけが」


「本当ですよ、アーティファクトにしたのは俺ですけど。ビデオカメラを買ったのはヨドバ〇です」


 店員さんはワナワナと震え、ついに膝から崩れ落ちた。


「大丈夫ですか?」


「ええ、一周回って酷く冷静です。とにかくその暫定アーティファクトが本物かどうか調べましょう。ついてきてください」


 カウンターから客席側にスタスタと歩いてきた店員さんがビデオカメラを掴み、外へ出ようとする。

 俺は慌てて、その背中を追いかける。


「ついて来いって。俺はダンジョンに入れませんよ?」


「入れなくてもかまいません。電子機器が使用不能になるのはダンジョンの中だけではないですから」


 酒場から徒歩数十秒、武装した職員が待機している三沢ビルの地下、つまりダンジョンの入り口前までやってきた。


「これ、どう使うんですか?」


「左側にあるモニターを開いて親指のボタンを上にスライドさせてください」


 店員さんが指示通りに操作すると、ピコン、と音が鳴り電源が入る。液晶は一瞬ブルースクリーンになり、そのあと販売元のロゴが表示されカメラの映像が映るようになった。


「行きます」


「いや、俺はついていけないんですって」


「構いませんよ、職員同行の場合はダンジョン一階のエントランスまで資格未保有者も入ってよい規則ですから」


 はえーっ、と知らなかった規則を教えてもらい、納得しながら階段を下りる。


「スマートフォンをお持ちですね? ライトを点灯して前を照らしてください」


「了解です」

 

 階段を下りながらスマホのライト機能をオンにする。

 言われた通りに前を照らしているとライトが点滅しだした。


「三十七段目、おおよそここが文明分岐点です」


「文明分岐点?」


「ライト等の電子機器が使えなくなる境界線のことです。数段下りるとスマートフォンのライトが消えます」


 その言葉通りスマホのライトはすぐに消えた。

 暗くて前が見えない。どんっ、と何かにぶつかる。触れたときにいい匂いがしたので店員さんかな?


「本当に消えてない…」


「あ、本当だ。失敗してなくてよかった」


「貴方は軽すぎます! とにかく酒場に一度戻りましょう。上司に判断を仰ぎます」


「え? もう確認終わったんで帰るつもりなんですけど」


「そんなこと許されるわけないでしょう!?」


 なぜか激おこな店員さんに引きずられて酒場へ引き返すことになった。

 


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