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CODE:HEXA  作者: 青出 風太
51/123

CODE:HEXA File3‐9 薄青の散る

―ヘキサ―


 窓際に立つガタイの良い男性は六花の目から見ればオクタと同年代だ。長年工作員をやっているのであれば、どこかで接点があってもおかしくはない。


 思い出せないか記憶をたどるが頭に靄がかかったかのように思い出せない。


 六花は組織の工作員全員を把握しているわけではない。


 名前持ちは24席しか用意されておらず、同時に存在している人数は最大24人。だというのに、その中でも面識のないものの方がむしろ多い。


 プロテアがその男性の元に戻ったのを見て、ライースが話し始めた。


 これから仕事が始まる。男性のことは記憶違いだったのだと切り捨て、六花はライースの話に意識を傾けた。



「本日はお集まりいただきありがとうございます。長々と語る前口上も特に用意しておりませんので、早速ではありますが本件の経緯から話していきましょうか」


 ライースは前置きを軽くすっ飛ばしていきなり本題を話し始めた。


「事の発端はオクタのチーム、実行部隊が確保した"細機利幸"の一件です」


 六花は久しぶりに聴く名前に虚を突かれた。彼はただの高校教師。こんな仕事で二度も名前が出てくるとは考えてもいなかった。


「彼は都内にある高等学校の教師であり、カミシログループの一件で調査の結果、確保するに至った人物です。年齢26歳、60代手前の父親がいますが、母親は既に死亡。兄弟、姉妹は無し――」


 ライースはスマホを見ながら、細機利幸についての情報を冷たく読み上げる。一段落したのか、一瞬の間をおいてから今度は彼の人生について順を追って語り始めた。


 彼は高校教師になる以前、プログラマーを志望していた。


 しかし、彼の母親が体調を崩したことでその道を諦め、学生時代共にプログラマーを目指していた友人にその夢を託した。


 半年後、その友人は学生時代に細機と共同制作していたプログラムを仕上げ、上場企業カミシログルーブに評価されたことで入社が決まった。


 夢を諦めきれなかった細機は高校教師になった後も友人を通して自身の作ったプログラムを売り込んでいたのだ。


 さらには自らが開発したプログラムをインターネット上のコミュニティで公開していた。


 「新しく、画期的ですぐに実用可能なレベルに達している物こそ公開されていなかったものの、その過程で構想した『新型プログラムとそれを搭載した超小型基盤』が『ある組織』の目に留まりスカウトを受けた、ようです」


「ある組織……?いくらネットに公開していたからって、カミシロにデータを提供していたんなら、スカウトを受けたのもそこからなんじゃ?」


 六花はボソリと感じた疑問を口にしたが、ライースには聞こえていたらしい。ライースは六花に視線を向け、わざとらしく大きく頷いた。


 六花はそういう彼のどこか芝居がかった動きを見て、やはり彼のことが苦手だと強く思った。


「そこです。そこなんですよ。スカウトの話は彼女から報告を受けていましたので、我々も初めはカミシロが行ったものだとばかり考えていました。カミシロは今エンジニアも役員も不足していますからね。……我々のせいではありますが」


 ライースは部屋を見渡してから、勿体つけるように話を戻した。言葉をゆっくりと紡ぐ。


「では、そのスカウトとは一体どこからか……」




「調査の結果。我々は、国の研究機関からスカウトを受けていたのだと結論を出しました」



 AIを搭載した完全な人型のロボットはこれまでにも多くの創作に登場しており、それがただの夢物語ではなくなっているのが今の世界だ。


 新型ロボットの開発は新たな生活インフラを作り出す世界の急務である。成功の暁には莫大な利権が得られる事は想像に難くない。


 どの国が真っ先にそれを成し遂げるか水面下では常に激しい競争が繰り広げられており、新たな争いの火種でもあった。


 今までの日本はIT系やロボット工学などの技術に明るい国家に対して多額の資金援助・技術供与を行うことで、対価としてその新技術を享受する姿勢を取っていた。


 したがって日本国内では正式なロボットの研究開発機関というものは存在していなかった。


 当然、六花の所属する組織でもそんな機関の発足についての情報は掴めていなかった。


 高校教師、細機利幸を誘拐するまでは。


「彼への聴取が決定打となり我々は機関の存在を事実であると判断しました。一月半ほどかかりましたが、調査の末に、研究施設を特定することに成功しました」


 ライースがそういうと同時、プロジェクターにその研究施設と思しき建物が映し出された。


 その施設はガラス張りの壁やコンクリートなど、場所によって様々な建材が使われた直方体の集まりで、複雑に組み合わさったような造りをしているせいで、近未来的なデザインをしていた。


 正直、周囲に映る森や山と比べて浮いている。


 スクリーンの左右にメインの二棟が映っており、二階の連絡通路を通って行き来が可能な構造をしていることが分かる。


 六花の目には周囲から浮いて見えたが、しかし、これが先進的なデザインの弊害なのだと言われたら納得してしまうだろう。しばらく見ていると違和感のようなものは徐々になくなっていた。


 六花は外観から大きめのショッピングモールくらいの規模だろうと想像する。


「おおよその敷地面積は80000m²ほど。地上3階、地下2階の5層構造の建物です」


(こんな施設の存在は知らなかったはずなのに随分と詳しいですね)


 六花以外にも同じことを疑問に思ったものはいただろう。しかし、それを無視して説明を続けようとライースは部屋の奥に視線を向け、ため息をついた。


「そこ、折角紹介しようとしてるんだから居眠りは止めてください」


 一斉にライースの視線の先に部屋中の視線が集まった。


 視線の先にはフードを目深に被った女の子が座っていた。ライースの声に反応してフードのネコ耳が揺れる。六花が目を凝らすとフードがライース言葉に反応して動いたことが分かった。


 確かに彼女はそのフードのせいで前を向いているのか下を向いているのかすら分からない状態だった。彼女は気だるげにフードの口を持ち上げる。


「……私は起きてるよ。続けて」


 六花はそんなぶっきらぼうな彼女に見覚えがなかったが、その隣に座る女性には覚えがあった。


 ラーレがナンパしていた桜の女性だ。


 六花が気づいたことにその女性も気づいたようだ。六花に向かって彼女は微笑みながら小さく手を振る。六花もそれに応えるよう軽く会釈する。


 ライースは咳払いをして、「次から寝ていると誤解されないよう気をつけてください」と小言をいって説明に戻った。


「私らは他の子と違ってアンタの指揮下にゃいないんだから、べつにいいじゃんよ」


 フードの彼女は小さくもはっきりと愚痴った。



 ライースは彼女の愚痴を無視して施設建設のいきさつを語り始めた。


 日本の1980年代後半から1990年代初頭にかけて起こった好景気、通称バブル期にはそれ以前から流行していたゴルフ熱に火が付き、更にゴルフ場の建設が相次いだ。


 それに伴い一般の人間がゴルフ場やその権利を持っているケースも増えた。しかし中には敷地は持っているもののゴルフ場建設には至らなかったケースもある。


 そういったケースでは山奥のだだっ広い平地が人々から忘れ去られたかのように手入れもされず放置されていることも珍しくない。



 六花はバブル期というものについて存在は知っていたが詳しいという程ではない。ゴルフについてもニュースで軽く知っている程度でルールすら分かっていなかった。


 広い土地が必要なスポーツであることくらいは知っていたため、そんなスポーツが流行るなんて珍しい時期もあったんだなとボケっと思っていた。


 ライースは今回の研究施設について放置された本来ゴルフ場になるはずの土地を国が極秘裏に買取して建造したものであるとさらっと説明した。


 政府の事業であるならばそれなりに地域住民に説明したり、問題にもなったはずだが、ライースはそういった部分は丸々省いて続ける。


「皆さんホテルにいらっしゃる途中で山を抜けてきたと思います」


 六花はそこまで言われてやっと自分がこのホテルに呼ばれた理由に察しがついた。


 再びライースは部屋中を見回しニヤリと笑みを浮かべる。


「そうです。皆さんお気づきの通り。この施設はその山奥の平野に位置しています。我々の今回の仕事は施設の破壊です」




 そこからはライースの秘書であるリエールの指示で本作戦のためのチームを再編成することとなった。各々コードネームで呼ばれ、作戦内の役割ごとにAからFのチームに割り振られていく。


 部屋の四隅、中央の机を目印としてリエールの指示したとおりに元の部隊編成から離れてそれぞれ集められた。


 六花はそのタイミングでフードの女の子が「ギプソフィラ」、ラーレにナンパされていた女性が「セレッソ」というコードネームを持っていることを知った。


 ライース曰く彼女たちは六花たちとは別の人物の下で働く工作員で、24席の枠には属していないらしい。


 今回の仕事では例外的に出向してきているようだ。


(指揮下にいないってそういうことか……)


 六花は「ヘキサBチームへ」の声で立ち上がり、Bが割り振られた部屋の隅へ向かった。


 六花が部屋の隅に移動する時、プロテアが侮蔑の視線を向けたことに気づいていなかった。

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