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CODE:HEXA  作者: 青出 風太
30/123

CODE:HEXA File2‐16 給仕は薄青

―リコリス―


「リコリス、和人さんのところにいてください。来ました」


 そう六花から連絡を受けたリコリスは武者震いしつつ、自分の仕事を遂行すべく行動を始めた。


(さて、ここに来るとしてどうやって入ってくるつもり?まさか、私みたいに窓から?)


 リコリスは廊下とこの部屋とを隔てる扉が消灯時刻を過ぎると、教育係長自らの手によって施錠されることを知っていた。だからこそ毎晩窓から侵入を試みていたのだ。


 敵も入り込むルートに窓を選ぶかもしれないと考え、和人に注意を配りながら窓の外、階下に広がる森を中心に目を凝らした。しかし、そこに人の気配はなかった。


 暗闇を照らすライトの類も見当たらない。


「なぁ、椛?何してるんだ?」


 ゲーム片手に訝しむ和人に何でもないと答え和人の近くに寄る。


(外にいないなら邸宅内を歩いて?でも、ここは鍵があるから開かないはず。一体どうやって……)


 そう考えた扉に視線をやった瞬間。


 ガチャリと鍵の開く音がした。


(やっぱり中からっ!)


 鍵はどうやって開けたとか、敵は何人いるのか、考える暇は無かった。ボケっと扉を眺めている和人を庇うようにリコリスは前に出る。隠し持っていたワルサーに手をかけたが、状況が分からない段階で出すべきではないと考え、構えられなかった。


 扉から姿を見せたのは、教育係長だった。



「……椛さん?」

「……」


 教育係長は覚束ない足取りで歩く。リコリスを部屋の中に見つけたことでより動揺しているようだった。そんな教育係長の後ろにちらりと男が二人見えた。


(二人……!)


 相手が二人ならリコリスでも相手にできる。後ろに見えた男はワルサーの射程内にいた。しかし、教育係長が無事に済む保証はない。


 見えた人数は二人だが、本当に二人だけだろうか。


 六花が無線で連絡をしてきてから次の連絡はない。まだ戦闘中なのだろう。そっちには何人いるのか。


 考えることは山ほどあった。しかし、六花がいない今、戦闘を行うことは得策ではないことリコリスは感じていた。


 男達は教育係長に続いて部屋に押し入ってきた。二人は全身黒系統の服を着こんでいたが、歩く様子から身のこなしは軽そうに思えた。


「あ?なんで、中にメイドがいるんだ」

「お前。どうやってここに来た?鍵がないと入れないんじゃなかったのか?」


 和人は突然の侵入者を前に声を失っていた。


 話す男達にリコリスは不意を付けば勝つことができるか考える。


 一人を撃って無力化出来れば、あとは一対一。やれなくはない……が、男の一人は今にも腰が抜けそうな教育係長を盾のように扱える位置にいる。もう一人を撃っても人質にされては結局意味がない。男の一人が小型のナイフを持っているのが見えた。今争えば、和人に被害が出る可能性もある。


 リコリスは考えた末、男達に渋々一つ提案した。


「……そのメイドの代わりに私を連れて行って」




 呆然とする男達にリコリスは震える身体を制して続ける。


「目的は和人様でしょ。そのメイドは人質のつもりかもしれないけど、腰が抜けて歩けなくなったらお荷物になる」


 男達も和人を攫ったらすぐに撤収したいはずだ。熊谷との交渉のため、人質も多い方がいい。しかし、動けない人質はすぐに撤収したい男達にとってはただのお荷物。いち早く撤収したい男達からすれば、教育係長は望ましくない存在だ。


 リコリスは一人で和人を守りきれないと判断し、今は和人と一緒に攫われるべきだと結論を出した。しかも、上手くいけば教育係長も助けることができる。


 だからこそ、男達にとって教育係長が扱いにくい存在であると話し、なるべく不自然に思われない範囲で、自分が一緒に攫われることを提案した。


「私がついていくのは単に人質ってだけじゃない。和人様を守らないといけないから。貴方達だって子ども一人連れて行っても扱いに困るでしょ」


 男達はリコリスの話を聞いて顔を見合わせた。


「そこまでして庇うなんてな。余程その坊ちゃんが気に入ってんだな。メイドさんよ」


 そう言うと男は部屋の外に向かって声をかける。


「こいつらを連れて行け」

「わかった」

 部屋の外からもう一人、男が入ってきた。


(やっぱり、二人だけじゃなかったか)


 男が三人に増えたことで、リコリス単体での勝機は消えた。


 男の一人がリコリスに向けて教育係長をつき飛ばした。リコリスは慌ててそれを受け止める。


「大丈夫ですか!お怪我は――」

 リコリスの言葉を遮り男たちは急かす。

「ほら、メイドさん。坊ちゃんと一緒に来てもらおうか」


 リコリスは教育係長を座らせつつ、耳打ちする。


「必ず、和人様は守るから今は驚かないで受け取って。可能ならこれを氷室さんに見せて」


 教育係長が小さく頷いたのを見てリコリスは男達に見えないよう、ワルサーと無線を手渡した。教育係長は驚いた様子を一瞬見せたが、リコリスに言われた通り、必死に声を押し殺してそれらを受け取った。


 リコリスは丸腰の状態で和人と共に男たちに連れられて行った。



―ヘキサ―


(秋花さん……!間に合って!!)


 六花は必死に邸宅内を駆ける。


 熊谷の部屋でツーブロックの男と戦い、熊谷を守ることには成功した。しかし、そのせいでリコリスに合流するのが遅れてしまっている。


 すでにリコリスがやられ、和人が攫われる最悪の状況を想像したが、その考えを振り払うように全力で和人の部屋に向かった。


 和人の部屋に着いた六花の目に真っ先に飛び込んできた光景は開け放たれた扉だった。


「リコリス……!」


 慌てて部屋の中を確認する。部屋の中にいたのは一人。へたり込んでいる三十代後半くらいのメイドだけだった。何故ここにあのメイドがいるのか、六花には理解できなかったがリコリスと和人の姿がなかったことで事態を察した。


「そ、そんな……」


 その光景は六花にとって「死」。任務の失敗を意味していた。静かに、六花は廊下で崩れ落ちた。




(秋花さんはどこに……?和人さんは?仕事は失敗?私は……)


 そんな考えが六花の頭の中をグルグルと駆け回る。あまりの事態に放心しそうになった時、背後に人の気配を感じた。二人だ。一人はこちらに腕を伸ばしてきている。


 突然の奇襲に驚きつつも、六花は即座に立ち上がり、勢いのまま背後に立つ人物の頭部へ振り向き様に蹴りを放つ。


 男は反撃に驚きよろけながらも、一歩引いて六花の蹴りを辛うじて避けた。


 六花は太腿につけたホルダーからナイフを抜き出し、攻撃を仕掛けてきた男に向かいつつ、周囲を確認する。よろけた一人はこのままナイフで仕留められる。


(もう一人は……!)


 もう一人の男はよれたシワのあるスーツを着ていた。見覚えのあるだらしないスーツ姿。


「師匠!?」


 もう一人の男はオクタだった。咄嗟に突き立てようとしているナイフを寝かせ、勢いを殺す。


 まさかと思い攻撃してきた男を見る。


「……ラーレじゃないですか」


 六花は襲撃者の正体がラーレとオクタであることを確認し、戦闘体制を解いた。


「紛らわしいことしないでください」

「悪い悪い。六花ちゃんが元気なさそうだったんでつい」


 ラーレは少しも悪びれる様子を見せなかった。


「リコリスはどうした。ヘキサ」


 オクタの言葉にハッとする。


「そ、そうでした。リコリスが……!」


 六花は廊下で戦闘になり、熊谷の危機を知ったことでそちらに駆け付けたために、リコリスの救援に来ることが遅れてしまった事を話した。


 パッと見て和人の部屋に戦闘の痕跡がないことから、リコリスが和人と共に攫われてしまったのではないかと六花は自分の推測を話した。


「……そうか。ん?中にメイドがいるな。俺たちはほぼ部外者だ。六花が話を聞いてきてくれ。何か知っているだろう」

「……はい!」


 六花はへたり込んでいる三十代くらいのメイドをなるべく刺激しないよう、後ろからそっと声をかけた。何度呼びかけても反応がなかったため仕方なく肩に手を置くと、メイドはビクリと肩を震わせて振り返った。


 メイドが六花を見て驚き、悲鳴をあげそうになったため、六花は慌てて身分を明かした。


「すみません!驚かせてしまって。椛さんと同じ日からここで働いてる氷室です!椛さんと和人さんは!?」


 六花が自身と同じ熊谷邸に仕えるメイドだと知ると、彼女は目に涙を浮かべつつ、必死に話し始めた。


「か、和人様と、椛さんが怪しい黒ずくめの男達に連れていかれてしまって……!椛さんは、私の身代わりに……!私はこ、これを渡されましたが、一体どうしたらよいのかわからなくて……」


 そう言われて六花はメイドの手のあたりに視線を落とす。そこにはリコリスのワルサーと無線があった。


 六花は激しく動揺した。これがここにあるということはリコリスは今何も武装していないということが分かったからだ。しかし、わざわざこれを置いていったというところから自ら人質としてついていったのだろうということに思い至り、冷静さを幾分か取り戻した。


「任せてください!和人さんとリ、椛さんは必ず連れ戻します!」


 そう六花はメイドに告げ、ワルサーを受け取ってオクタ達の元へと戻った。


「師匠。リコリスは今、何も武器になるものを持っていないはずです!何とかしないと……!」


 六花はオクタにリコリスの置いていったワルサーを見せる。


 オクタは腕を組んで少し考えた後、ラーレを一瞥する。ラーレはそれに頷きで返した。


「よし。じゃあ行くとしますか!」

「……行くってどこに?」


 ご機嫌なラーレに気圧されながらも六花は突っかかる。


「そりゃ当然。囚われの王子とお姫様を助けに悪者の根城へさ」

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