表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密のクロマル  作者: はなまる
終章
93/96

第四話 クロマル最終形態

 春が来て、夏が来て、季節が巡った。


 僕は高校生になり、そして大学生になった。


 僕の身長はぐんぐん伸びて、いつかクロマルが言った通り、百八十センチを超えた。


 高校でもバスケ部に入り、インターハイに出場した。


 そろそろ成長期も終わりだなぁと思っていた頃、エクーの星の政府が地球への公式訪問にGOサインを出した。


 クロマルが宇宙へ飛び立つ時が、とうとうやって来たのだ。僕はそのための存在力を渡すことにした。


 骨端が閉じているのを確認してもらってから、久しぶりにクロマルと並んで眠りについた。


「シュウ、シュウ!」


 おう! クロマル! おまえと一緒に眠るのは、ずいぶん久しぶりだなぁ。どうだい? 調子は?


「カナちゃんと飛ぶのはすごく楽しい。他のガルーラに会うのも楽しいよ!」


 なんだよ、全然変わってないじゃないか! クロマル、もう大人になったんだろう?


「シュウこそ、大きくなったのは身長だけに見えるけど?」


 久しぶりに深く繋がれたのが嬉しくて、はしゃいでお互い軽口を叩き合う。


「シュウは今でも、カナちゃんのことが好き?」


 うん? 当たり前だろ! 大好きだ!


 高校の卒業式の朝、直接告白してあっさりフラれた。ハタチの誕生日に、もう一度チャレンジして玉砕した。成人式を終えたその足で、花束を持ってプロポーズした。……ダメだった。


 カナリさんにとって六歳の年の差は、僕が思うよりも厚い壁みたいだ。


 でも僕は諦めてはいない。確かな手応えだって感じている。だからコツコツとその壁を、少しずつ、少しずつ削っている。


 そのうち一気にぶち壊して、絶対に逃がしてなんかやらない。すでに周りは固めてある。我ながら、僕はけっこう腹黒い。


 うちの母親も、カナリさんのご両親も、月基地のエクーの星のガルーラ乗りも、地球産マスターも、みんな僕の味方だ。


 あとは僕がお姉さんを支えられる、大きな男になるだけだ。……いや、小さくなるのも大切だな。


「シュウにいいこと教えてあげる」


 クロマルがいたずらっ子のように言った。


「最近のカナちゃんは、シュウに“カナリさん”って呼ばれるたびに傷ついている」


 えっ? 昔みたいに“お姉さん”って呼んだ方がいいのか?


「バカだなぁ、違うよ! カナとかカナリって、呼んで欲しいみたい。でも言ったらダメだと思っているんだよねぇ」


 マジで!? 


 フフフ……。ハハッ! やったぞクロマル! もう勝ったも同然よな?


「シュウに仕上げの存在力をもらうと、ぼくはシラタマとケッコンできるんだ。ぼくとシラタマの子供が生まれたら、シュウがマスターになってくれる?」


 良いのか? でも僕を選んでくれるかなぁ。


「大丈夫。シュウの存在力はとびきりだから。カナちゃんと同じくらい良い匂いがする」


 やっぱりガルーラの、マスター選ぶ基準って『旨そう』とかそういうことなのか?


「存在力は魂の味、心根の味。好みもあるけど、おいしい存在力を持つ人は、ガルーラの力を悪用しないんだ。それが選ぶ基準だよ」


 ああ、確かにそんな感じだな。ガルーラのマスターは、みんながみんな、あったかい。


「カナちゃんの存在力は、栄養たっぷり。元気がもりもり湧いてくる。シュウの存在力は甘い。疲れた時に染み渡る感じ」


 へえ、どっちが好きなんだ?


「アハハ! 選べないよ。どっちも大好き。どっちも大切。カナちゃんに逢えて本当に良かった。シュウがいてくれて、天に感謝する」


 僕はグルメ的な意味で聞いたのに、思いのほか照れくさい答えが返って来た。


 クロマルはやっぱり少し、大人になったみたいだ。


 僕も負けてはいられないな!


 そして。いよいよ運命の時が来た。クロマルと息を合わせて、意識をシンクロさせる。



 僕の力がクロマルに流れてゆく。


 変換され、行き渡り、あるべき場所に満ちてゆく。足りなかったものが形作られ、最後のピースがカチリとおさまる。


 僕らは五感を共有している。


 クロマルの魂が歓喜に震えた。


 抑えきれない咆哮が、喉を焼いて(ほとばし)る。バチバチと火花を散らし、全身の毛が一斉に立ち上がった。


 クロマルが今、ようやく宇宙を駆ける力を手に入れた。


 それは、立ち尽くすほど恐ろしく、鳥肌が立つほどに美しかった。


 行けよ、クロマル。

 どのガルーラよりも力強く、

 どこまでも自由に宇宙を駆けてゆけ。

 そして僕の大切な人を、

 必ず連れて帰ってくれ。



 こうして、僕の存在力15センチ分をキッチリ受け取ったクロマルは、無事に成体となった。そして、カナリさんを乗せてエクーの星へと旅立って行った。


 あ……! カナリさんじゃなくて――。


『カナ』


 ……うわぁ! くすぐったい!! 無理! 急にはむりいぃぃっ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ