第三話 至高のもふもふ
おなかを上にして寝ているクロマルの上に、そうっとよじ登ってお昼寝する。
規則正しく上下する柔らかいおなか。素肌をくすぐるふわふわの毛並み。王様やお姫様のベッドにも負けない、極上の寝心地だ。
あまりの気持ち良さに離れがたくなって、ついついダメ人間になってしまう。
思えば私の幼い頃の夢は、シロクマやカビゴン(ポケモン)のおなかの上でお昼寝する事だった。
まさか叶うとは、夢にも思わなかった。ガルーラ最高!! マスターになってほんと良かった!
香箱座り(前脚を畳んでうずくまる座り方)している時に、胸の毛に埋まり込むのもたまらない。
頭の上でゴロゴロと鳴る喉の音を聞いていると、いつの間にか日が暮れていたりする。
座っている前足を枕にするのも、最高に気持ちいい。知ってる? 前足の毛って、短くて細くてサラサラなんだよ!
肉球もいいんだよなぁ……! 外から帰ってクロマルの足を、温かい濡れタオルで拭うと肉球が少し柔らかくなる。
そのホカホカのプニプニに、じぶんの冷たくなった頰を押しつける。
つい、ほわぁーとか、ふひゅーとか、意味不明なことを口走ってしまう。
先日シュウくんのお母さんと、お茶した時にお互いの至福の時間について自慢し合った。
私は、自分より格段に大きな『もふもふ』の魅力を熱く訴え、シュウくんのお母さんは掌に収まる、小さな小さな『もふもふ』の愛らしさを、うっとりと語った。
「両方は味わえないのが、ちょっと残念ね!」
お互い幸せなので、なんの問題もない。
最近、シュウくんがチャイに夢中なことで、クロマルは少し焼きもちを焼いている。ふよふよと漂うチャイに、ちょいちょいと、猫パンチを喰らわしたりするのだ。
チャイは何度か弾き飛ばされたあと、強烈な反撃に出た。
クロマルの鼻に、思い切り噛みついたのだ。クロマルは、タラリと鼻から血を垂らして、尻尾を丸めて逃げ出した。
そのことがあってから、クロマルはチャイに敬意を払っている様子だ。頭の上に乗せて、空の散歩に出かけて行ったりしている。
時々、説教をされているような二匹を見かけるので、完全に頭が上がらない関係が築かれつつあるようだ。
元々チャイは子持ちの、お母さんガルーラなのだ。悪戯坊主のクロマルが、敵うはずがない。クロマルの耳の間に、チャイがペタリと身を伏せて乗る。
クロマルは落とさないように、そうっと歩いたり、飛んだりしている。
余りに微笑ましくて、可愛くて、動画に撮って実家の両親に送った。すぐに返事が来て、二人して今度見に来るそうだ。
ちなみに、ガルーラ同士の関係について、マスターが口や手を出すのは、ご法度なのだとか。ガルーラは余程のことがあっても、お互いに大きな怪我をするような争いはしないらしいんだけどね。
色々あったけれど。
本当に色々なことがあったけれど……。
私はクロマルのマスターになったことを、少しも後悔していない。この大きさだからこそ味わえる、楽しいことがたくさんある。
これからもクロマルと楽しく暮らして行こうと思う。
私はガルーラ乗りとして、まだまだ半人前だ。でも今は、それもありがたいと感じている。だって、これからもクロマルと、たくさんの事に挑戦して行けるのだから。
地球一……いやいや! 宇宙一のガルーラ乗りを目指しちゃおうかな!
クロマル、どうよ! 目指しちゃう?!
えっ? カナちゃんはぼくにとっては、宇宙一のマスターだって?!
ヤダッ! クロマルったら、照れるなぁ!
クロマル、これからも――ずっとずっと一緒だよ!