第一話 地球人のマスター
カナリさんとクロマルが、文字通り世界中を飛び回って探したマスターは、もうすぐ三桁の大台に乗る。
見つかった人たちは全員が契約を忘れてしまっていて、隠れて暮らしていた。これはもう、地球人の存在力の特性なのだろう。
そしてガルーラや存在力の事を知っても、誰ひとりとして、ガルーラのマスターになる事を拒んだ人はいなかった。
エクーがずっと前に言っていた『ガルーラは共に生きる覚悟のない者と、契約を交わしたりしない』というのは本当だったんだ。
エクーの立ち合いの元、契約の儀式を行なうと、効率の良い存在力の受け渡しが可能になる事も、カナリさんと同じだった。
契約の儀式は、カルマイナではそう重要視されていなかったらしく、エクーも驚いていた。
カルマイナのガルーラ乗りは誰もが自覚と強い意志を持って契約に臨む。それが重要なのかも知れないとエクーが言っていた。
人種も大きさもそれぞれのマスターたちは、自分とガルーラの未来についての考え方も、色々だった。
エクーやカルマイナの調査チームが力になってくれて、各自の在り方を模索している。
不思議なのは、そんなにたくさんのマスターがいたのに、ガルーラや自分を見世物にして大儲けしたり、人の物を掠め盗ることを考える人が、ただのひとりもいなかったことだ。
なぜだろう? 人間はそんなにも清廉潔白じゃないことくらい、僕だって知っている。
ガルーラと契約者なら、大儲けする方法が、いくらでも思いつく。
それなのに、見つかったマスターたちは、自分のガルーラと楽しく暮らすことしか考えていない。みんなカナリさんと同じ種類の人たちだった。
そのことに気づいた僕は、何だか嬉しくて笑ってしまった。エクーも同じことを考えていたらしく『地球人マスター、スゲェな!』と言って、二人で声を上げて笑った。
案外、ガルーラのマスター選びの基準は、そのへんにあるのかも知れない。
見つかったマスターの中には、カナリさんのマスター探しを手伝いたいと言ってくれる人もいて、カナリさんの家はその拠点のようになっている。
各国の言葉が入り乱れて飛び交っているけれど、うちわの翻訳機が大活躍してくれている。
カナリさんの実家からは、精巧で使い勝手の良いミニチュア家具と、素材にもデザインにもこだわった小さい人用の服が、月一ペースで送られてくる。
若干コスプレ風味の服が多いと思うのは、僕の気のせいではないだろう。みんな喜んで着ているので、問題はないそうだ。
カナリさんの家は、ドールハウスが並んだ箱庭のようになっていて、見ているだけでとても楽しい。ガルーラが何頭も天井近くにふよふよと浮かび、小さな人たちがちょこちょこと行き交っている。
僕は大き過ぎて邪魔になってしまうので、最近はあまり、立ち入らないようにしているんだけどね。
エクーは月の視察団の拠点へ行ったり、一旦自分の星へ帰ったりもした。
ちなみにシラタマの『二人目のマスター』は、猫集会所の神社の、大好きなお爺ちゃん神主さんにお願いした。
神主さんは、カナリさんたちを見てびっくりしていたけど、事情を話したらニコニコ笑いながら承知してくれた。
「そうですか。この子が宇宙へ出るために、私の力が必要というのは、とても光栄ですね」
そんな風に言ってくれるのを聞いて、僕もとても嬉しくなった。
他にも二人目のマスターを必要とするガルーラはたくさんいたけれど、ガルーラが選ぶ人は全員がとても優しい目をしていた。
僕はふと、自分もガルーラに選ばれた、二人目のマスターなんだと気がついて、誇らしくて、少し照れ臭い気持ちになった。
そして、クロマルに愛想を尽かされるような人間にだけは、なったらいけないなぁと思った。