第十三話 後日談
翌日、エクーがラティスを連れて謝りに来た。
エクーは頭を丸坊主にしていて、ラティスの腰までの長い髪も、バッサリとショートカットになっている。二人は私と、シュウくんの顔を見るなり、土下座した。
フライング土下座、初めて見たよ!
「カナリ、シュウ。それからクロマル! 今回の事、誠に申し訳御座らん! 申し開きのしようもないが、詫びだけはさせて頂きたく、恥を忍んで参上仕った!」
口調がまたサムライになってるエクーの隣で、ラティスはずっと、えぐえぐと泣いていた。
「エクー、そんな大袈裟な……。全員無事だったんだから、もういいじゃない」
ほら顔上げてよーと笑ったのに、エクーはの顔は緩まなかった。
「そんな訳にはいかない。法的に言っても、クロマルの拉致監禁、カナリに対する殺人未遂、シュウへの暴行罪……。カルマイナでは、ガルーラに関わる犯罪は重く裁かれる」
ええっ! で、でも、ラティスはまだ未成年でしょう? 第一、私は起訴しませんよ!
「法的な問題を抜きにしても、今回の事は一族で会議にかけられた。ラティスは一生涯、ガルーラに関わることを禁止された」
ラティスが、しゃくり上げながらポロポロと涙を零す。
「ご、ごめんなさい。私、本当に、取り返しのつかないことをしてしまった。カナリさん、クロマル、シュウさん、本当にごめんなさい」
取り返しのつかないなんて……。そんな悲しいことを言わないで。確かに、ひどく悲惨な結果になっていたかも知れない出来事だったと思う。
クロマルの心が壊れてしまったり、シュウくんにもしものことがあったら、私もこんな呑気な対応は出来なかっただろう。
でも少なくとも、私は今、ラティスがひどい目にあえば良いなんて、一欠片も思っていない。
「カルマイナの“地球におけるガルーラとそのマスターについての調査チーム”責任者、エクーさん」
「ははっ!」
なんつー返事だよエクー。私はお奉行さまかいな?
「今回の事件の被害者として、ラティスの身柄を要求します」
「はっ!」
「ラティスは私の保護観察の元、二度とこんな事件を起こさないように、辛く厳しい修行をしてもらいます。立派なガルーラ乗りになるまでは、カルマイナに帰ることは許しません」
「えっ……」
ラティスが、泣き腫らした目をして顔を上げた。
「あと、私のお菓子作りを手伝ったり、一緒に美味しいジェラードを食べに行ったり、お揃いのお洋服を着たりしてもらいます」
「カナリ、それでは罰にならないだろう」
隣でシュウくんが吹き出した。
「ハハッ! 僕もそれで良いと思うよ。こういうの、なんていうんだっけ? 治外法権?」
おお、さすが受験生!
「エクー、私は子供に『取返しがつかない』なんて言わせたくない。間違ったら止めるのが大人の仕事だ。自信がなくて、ラティスを止められなかった私にも、責任があるんだよ。今ならちゃんと言える」
ラティスの膝に乗り、真っ直ぐに見上げて、大きな声で宣言する。
「クロマルは、シュウくんと私の、大切なパートナー。他の誰にも、手出しはさせない! 二人で立派に宇宙に出られるガルーラに育ててみせる」
だから……。だから、ラティス。あなたは自分で、自分だけのガルーラを見つけて。
そしてそのガルーラに、選ばれるあなたでいて。
こうして我が家に、居候が一人増える事になった。赤い髪の毛も今のご時世、そう目立つものではない。
私の大きかった頃の服やアクセサリーを使ってもらったり、一緒にお菓子を作ったり。すごく楽しいの!
えっ? 修行? も、も、もちろんやってますよ! 近所のガルーラと交流したり……。カラオケスタジオで歌を教えてもらったり!
ラティスは時々、クロマルを見て涙ぐんだり、そっと抱きしめて、何度も謝ったりしている。クロマルはまだちょっとラティスが怖いらしく、困ったように私に視線を投げてくる。
まだ時間が必要かも知れないけれど『取り返しがつかないこと』なんかじゃない。
エクー、ラティスは良い子だよ! もう、二度と、自分のために歌ったりしないよ。
大丈夫! 私に任せてよ!
あと、髪の毛……早く伸びると良いね!
第五章、終了です。ようやくここまで来ましたね! 次話からは『終章』です。続けて投稿します。