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秘密のクロマル  作者: はなまる
第五章 クロマル強奪
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第十二話 それいけクロマル

▽カナリ



 強い風と落下の負荷に耐えられずに、残っていた左のプロペラが、ひとつ、ふたつと順番に折れて吹き飛んで行く。


 あまりの状況に、思わず意識が遠のきかけたけれど、視線の端にドローンの後を追って、慌てて急降下をはじめたクロマルが見えた。


 ああ、良かった。正気に戻ったんだ。頑張った甲斐があった。


 私は座席のシートベルトを外して、思い切ってクロマルに向かって跳んだ。


 大丈夫、きっとクロマルが受け止めてくれる。両手と両足を広げると、夜景を抱きしめているみたい。風圧で服がバタバタと大きな音を立てて、頬のお肉がブルブルと震えた。


 スカイダイビングなんて、一生縁がないと思っていたけれど、やってみたらなかなか爽快じゃない?

 夜空に、ぽっかりと浮かんでいるみたい。パラシュートは背負っていないんだけどね!


 クロマルが慌てた様子で加速して、私の下に回り込み、ボスンと背中で受け止めてくれた。


 ああ、やっとここに戻って来られた。クロマルの背中。マスターとして、私の生きる場所。



 クロマル、痛いところはない? 大丈夫?


「カナちゃんが落ちて来た背中が痛いよ! 少し重くなったんじゃない?」


 なんだと? この性悪ガルーラめ!


 背中に乗った途端に、強く強くクロマルと繋がる。からかうよう言葉が、今は甘い水が染み渡るように心地良い。でも少しシャクに触ったので、両手でヒゲを掴んで引っ張ってやった。


 クロマルの首にしがみつく。ギューっと抱きしめて顔を擦りつける。


「カナちゃんを乗せて飛ぶの好き。カナちゃんの歌が大好き。歌ってくれたの、嬉しかった」


 聞こえたんだ。私の歌は……ちゃんとクロマルに届いたんだ。


「真っ暗で寒くて、自分がいないみたいですごく怖かった。でもカナちゃんの歌が聞こえたら、おなかがポカポカあったかくなった」


 私の歌、すごい! 最強! 無力なんかじゃない。たぶん効果はクロマル限定だろうけど、それで充分! おつりが来るくらいだ。


 もう一度、ムギュウウウと、力の限りクロマルの首を抱きしめる。


「苦しいよカナちゃん!」


 クロマルが笑いながらゴロゴロと喉を鳴らした。


 ヨシ! 歌うぞ! “それ行けクロマル! 任せてぴょん”だ!


「カナちゃん……。任せてニャンだよ……」


 そう、ソレ! いっくぞー、いちばーん!



 カナちゃん、ダイスキ。



 クロマルの囁くような言葉が胸を擽る。思わず涙で喉が詰まったけれど、これだけは、どうしても最後まで歌いたかったから――。


 私は鼻水をすすりながら、涙にむせて咳込みつつも、きっちり三番まで歌い切った。



 お帰りクロマル。私もクロマルが――ダイスキ。




▽シュウ



「カナリさん! クロマル! 返事をしてよ!」


 僕が、半分泣き声のような叫びを上げたその時。


 空から、小さく歌声が聞こえて来た。弾けるように空を見上げる。



 そこには、踊るように空を駆けている、クロマルがいた。



 歌っているのは、カナリさんだ。クロマルはカナリさんの歌に合わせて、楽しそうに跳ねながら降りて来る。


 光の波紋がいくつも空を彩り『ポーン、ポポーン』と、鉄琴を奏でるような音が響く。


 僕はヘナヘナと身体中の力が抜けて、その場に仰向けで倒れ込んだ。大きな月と星空を背に、オレンジ色の光をまとって踊る、真っ黒な獣。


 まるで幻想的な影絵みたいだ。


「シュウ、心配かけてごめんね」


 クロマルが僕のおなかに、ふわりと着地して、照れ臭そうに言う。擦りむいた頰をざらざらの舌で、舐めてくれる。


「シュウくん、なんで裸なの?!」


 カナリさんがびっくりした顔をして言った。手に持った、焼け焦げたTシャツを見て顔色を悪くしている。


 僕が火傷や怪我をしていないか、心配してくれてるみたい。ぺたぺたと小さな手で、肩やお腹を探り出した。


 僕はくすぐったくて、照れ臭くて、笑いたくなったのだけれど力が入らなくて、大の字に寝転がって、もう一度夜空を見上げた。



 月が、きれいですね。カナリさん! クロマル!



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