第十一話 落ちる
▽カナリ
クロマルの身体から、ふっと力が抜けたように見えた。俯いて、漂うように宙に浮かんでいる。正気に戻った?
上昇をやめて、クロマルの周りを旋回してみる。うーん、そろそろプロペラがヤバイかも。
「クロマル、クロマル! 大丈夫?」
ヘタリと耳を倒して、ドローンの動きを眼で追っている。
あっ! いつものクロマルの顔だ!
イタズラをして、怒られるーって時の顔してる。
「バカだなぁ、クロマル! 怒ったりしないよ。怖かったね、苦しかったね。もう大丈夫だよ! ほら、おいでおいで!!」
クロマルに向かって、両手を差し出した途端、辛うじて回っていた右側のプロペラが、バキリと不吉な音を立てて折れた。
バランスを保てなくなったドローンは、クルクルと回りながら落ちはじめた。
ヤバイヤバイヤバイ! こんな高いところから落ちたら、絶対に助からない。
あ、そうだ! 離脱スイッチがあるじゃない! 確かエクーが、パラシュート付きだと言っていた。
パニック一歩手前で踏み止まり、なんとか離脱スイッチを押す。
「ポチッとな!」
一回言ってみたかったんだ、このセリフ!
あれ? もう一回、ポチッと!
「…………」
うわぁぁぁーん、反応しないぃぃ!
▽シュウ
少し離れた場所から、何かを叩きつけて、壊してしまったみたいな『ガシャーン』という大きな音が聞こえた。
お、落ちてしまった? ドローンが? ちょっと待って! そんなのナシだよ!
僕はまだ、走り出してもいない。
急いで大人した方向へと走ると、足に力が入らなくて、何度もつまずいて転んだ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ! そんなの嘘だ。
空を見上げる。真っ暗で何も見えない。さっきまでは確かに、カナリさんの乗ったドローンがチカチカと点滅していたのに!
焦げくさい臭いがする。あそこだ!
煙の場所に転がるように近づくと、ぐちゃぐちゃに壊れたドローンから、細い煙が上がっていた。
Tシャツを脱いで、バサバサと叩く。熱くてとてもさわれない。震える手にTシャツを巻いてひっくり返したけれど、ドローンの操縦席は空っぽだった。
「カナリさん! どこ? クロマル!!」
下草をかき分けて、這いつくばって探す。見つからない。暗くてよく見えないよ!!
どうしよう、見つからないっっっ!!