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秘密のクロマル  作者: はなまる
第五章 クロマル強奪
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第八話 強襲 ②

▽カナリ



 シュウくんが呆然と立ち尽くしている。


 あんな恐ろしい姿のクロマルを、きっと初めて見たのだろう。私は知っている。クロマルはガルーラだ。人を襲う、恐ろしい宇宙の獣の顔を持っている。


「うわっ!!」


 無防備なシュウくんの肩を、クロマルの爪が掠めた。


 クロマル! シュウくんだよ? シュウくんだよ!


 クロマルの眼に、一瞬だけ戸惑いの色が滲み、すぐに消える。野生の獣そのままのしなやかさできびすを返し、空へと舞い上がる。


「シュウくん! 大丈夫?!」


「うん、袖が破けただけ。でも……驚いた」


 良かった。怪我はしていない。でも、次はクロマルの爪が、シュウくんを引き裂いてしまうかも知れない。


 そんなことはさせられない。


 クロマルはシュウくんが大好きだから。正気に戻った時、自分がシュウくんに怪我をさせたと知ったら、きっとひどく傷つく。


 止めなくちゃ! そんなをことさせてはダメだ。


「シュウくん、ジープの荷台にドローンが積んであるの。私がそれに乗って飛ぶ」


 もっと近くなら、クロマルに私の声が届くかも知れない。


「えっ?! 危ないよ! それに僕、ドローンの操縦なんてやったことない!」


「エクーが改造してくれた。操縦しながら飛べる」


 まだ試験飛行さえ済んでないけれど、やるしかない。大丈夫、私は本番に強いはず!


「シュウくんはラティスを止めて」


 風に乗って歌が聞こえる。クロマルを狂わせる歌が、低く、単調なメロディを繰り返す。


 宵闇の空に浮かぶクロマルが、苛立つように頭を振った。口の端に泡が浮いている。


 やめて、もう歌わないで! クロマルが壊れてしまう!


 上唇を捲り上げ、牙を剥き出しにして、クロマルが低く唸り声をあげる。


「シュウくん、来る!!」


 黒いボールのようになったクロマルが、シュウくんに体当たりした。とっさに腕をクロスさせて受け止めたシュウくんが、弾き飛ばされて倒れる。


 私もシュウくんのポケットから飛び出してしまい、地面をゴロゴロと転がった。


「カナリさん!!」


 シュウくんが、唇の端の血を拭いながら立ち上がった。私もシュウくんの元へ走り寄る。


「シュウくん怪我は?!」


「大丈夫!! カナリさんは?」


 リュックが破れて、中の物が散らばってしまっている。ドローンは無事?!


 クロマルがまた、空へ駆け上がる。


「私は大丈夫! シュウくん、行って!! ラティスを探して、歌をやめさせて!」


 シュウくんが頷いて、私をクロマルの視線から守るように胸に抱き、リュックの中から改造ドローンを取り出す。


「壊れてないかな? スイッチは……コレ?」


 カチリとスイッチが入り、青い小さなランプが灯る。良かった。壊れてない!


「カナリさん、無茶しないで。僕が必ずエクーの妹を探す」



 シュウくんがお祈りする人みたいに、私を手の平で包んで、自分の額にそっと当てた。



▽シュウ



「シュウくんも気をつけて!」


 カナリさんがドローンに乗り込んで、浮かび上がりながら言った。


 明るい満月の灯りが、濃い影を浮かび上がらせている。急に風が強く吹き、木々を揺らしてザワザワと不穏な音を立てる。


 ぼくは暗闇を怖がるほど、子供じゃないつもりだけれど――半袖のTシャツから伸びた腕に、ポツポツと鳥肌が立った。


 山奥の暗い森の中、得体の知れない歌を歌う、赤い髪をした宇宙人の少女……。


 僕は、明らかにビビっている。カナリさんと一緒の時は、恰好つけて平気なふりをしていただけだ。


 だからと言って、引き下がる訳にはいかない。クロマルが歌と戦っている。カナリさんも危険を承知で飛ぶ。


 大好きな女の人と、大切な相棒を助けられなかったら、僕はきっと一生を後悔して過ごさなければならない。


 そんなのは真っ平ごめんだ。


 短パンのポケットの中で、自転車のカギがチャリチャリと音を立てた。クロマルとお揃いのキーホルダー。クロマルの肉球をかたどった、カナリさんお手製の小さな飾り。


 ぎゅっと握って、手のひらの中に勇気の明かりを灯す。僕らはチームだ。離れても、それぞれの役割りを果たして、勝利を目指す。


 僕の役割りはラティスを探して、歌をやめさせることだ!






続きは22時投稿。

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