表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密のクロマル  作者: はなまる
第五章 クロマル強奪
79/96

第四話 爆走、マウンテンバイク ②

▽シュウ


 カナリさんが、僕のポケットから顔を出して、情報共有のために状況を説明してくれた。


 エクーの妹が訪ねて来て、クロマルを連れて行ってしまったこと。本来ならば、その妹がユエの子供のマスターになるはずだったこと。彼女が禁忌の歌を歌ってしまったこと。


 僕は自転車のペダルを踏むのに、体力を全振りしているから、時々小さく頷く以外は出来なくて、黙ってカナリさんの話を聞いた。


 全く、そんな赤ちゃんみたいな理由で、よその星の人に迷惑をかけるなんて……。そんな子が危険な災害獣のマスターに、なれるんだろうか?


 それにしても、クロマルが心配だ。禁忌の歌とやらを聞いて、僕やカナリさんを忘れてしまったのだろうか?


 そう考えた瞬間。



 僕とカナリさんの回路がつながった。それは不思議な一体感だった。


 ガルーラは存在力の受け渡しをするために、マスターとの間に『回路』と呼ばれる、存在力が流れる道を作る。


 僕とクロマル。カナリさんとクロマル。二つの回路が交差して、つながった。


 そして同時に、滞っていた流れが動き出す。クロマルが、僕とカナリさんを呼んでいる。身体が動かなくて、不安な気持ちで泣きべそをかいている。


 クロマルが、僕とカナリさんを呼んでいる!!


 カナリさん、クロマルは忘れていないよ。クロマルとの絆は切れてなんかいない!


 カナリさんがポケットから乗り出して『シュウくん!』と僕を呼んだ。きっとカナリさんもこの一体感を感じている。僕は大きく頷いた。


 カナリさんの情けなく垂れていた眉が、ギュッと引き締まる。


 僕は、カナリさんのへにょっと笑った顔が好きだけど、この戦う人みたいな凛々しい眉も大好きだ。格好良くて見惚れてしまう。


 僕も釣られて気合が入る。試合で得点が拮抗している時に、チームの仲間が悪質なファウルを喰らった時みたいな気持ちだ。


 そんな時、僕は思うんだ。


『あくまでフェアに叩きのめしてる!』ってさ。


 カナリさんやクロマルが許したとしても、僕はエクーの妹を許さない。カナリさんとクロマルを泣かせたことを、後悔させてやるからな。


 ぎゃふんと言わせてやる!


 まあ、宇宙人はぎゃふんって……言わないかも知れないけどさ!



▽カナリ


 私とシュウくんとの回路がつながった。


 こんなのは聞いていない。シュウくんの気持ちが、途切れ途切れに流れ込んで来る。


『大丈夫、僕はまだまだ走れる』『クロマル、待ってろよ! 今助けに行くから』『変な歌なんかに負けるな!』


 熱量のある想いが、揺るがない強さを持って流れ込んで来る。


 正直、また私の厄介ごとに、巻き込んでしまったと思っていた。私とクロマルの問題だと思っていた。


 でも違う。


 この子は、自分の意思でクロマルと共にあることを望み、そして、クロマル自身が選んだマスターなのだ。

 クロマルは私の足りない分を、間に合わせでもらうために、この子を選んだ訳じゃない。


 シュウくんとクロマルにだって、私の知らない絆がある。私の知らないところで、一緒に過ごした時間があるんだ。


 シュウくんと私は、同じ想いで、クロマルに向かっている。


 今なら、ラティスに言い返す事が出来る。


 ひとりでは足りなかったけれど、クロマルには二人のマスターがいる。私とシュウくんで、クロマルを立派に宇宙に出られるガルーラに育ててみせる。


 例え禁忌の歌のせいで、クロマルが私とシュウくんを忘れてしまったとしても……。


 もう一度、クロマルのマスターになってみせる。私とシュウくんを、マスターだと認めさせてみせる。


 諦めるもんか!



 なんの予備知識もなしで、契約した地球人マスターを舐めんなよ!



 ようやくふつふつと闘志が湧いて来た。そしてクロマルの気持ちが流れ込んで来る。


 不安で泣きそうな声で、私とシュウくんを呼んでいる!


「シュウくん!」


 ポケットから身を乗り出すと、シュウくんが大きく頷いた。私と、シュウくんと、クロマルの回路が全部つながったんだ!


 行こう。一緒にクロマルを迎えに行こう! 私たちは二人で一人。



 この宇宙に二人きりの、クロマルのマスターだ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ