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秘密のクロマル  作者: はなまる
第五章 クロマル強奪
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第二話 追いかけて

 目を見開いたまま固まって、クロマルがコトリと置物のように倒れた。


「クロマル!!」


 私が走り寄るよりも早く、ラティスがクロマルを抱き抱える。手も、足も、リーチが違い過ぎる。


「この子は私が宇宙に連れてゆく。出来損ないのマスターのあなたに、これ以上出来る事はない」


 一瞬、私の身体も固まった。


 グサリと深く胸を刺すコンプレックスが、私の足を止めてしまった。私はクロマルに必要な存在力を、渡してあげられない。


 ガルーラと宇宙を旅するのに必要な、歌を歌うことが出来ない。未だにクロマルを乗りこなすことすら、出来ていない。


『そんな事じゃ、クロマルを自由に飛ばせてあげられないぞ』


 いつかのエクーの言葉が、ラティスの作った傷を、さらにえぐるように広げる。何ひとつ、言い返せずに立ち尽くす。


 ラティスは呆れたような、責めるような視線を投げかけると、クロマルを大きな袋に入れて、部屋を出て行ってしまった。


 背中にバタンとドアの閉まる音を聞いて、冷たい床にヘタリと座り込む。足りない存在力、拙い騎乗、いくら練習しても歌えない歌、ラティスの言う通りだ。


 幼い時から、マスターになる為に努力を重ねてきた彼女に『出来損ないのマスター』と呼ばれても仕方ない。

 私はたった一年と少し前に、たまたまクロマルと出会っただけの地球人だ。ガルーラ乗りになりたかった訳じゃない。


 小刻みに震える指を見ながら、ガンガンと痛む頭を力なく振る。


 禁忌の歌のせいで、マスター契約は解消されてしまったの?


 そうしたらクロマルは、ラティスを選ぶの?


 顔を上げずにさまよわせた視線の端に、見覚えのある革製の飾りが映る。


 クロマルが倒れた時に、首輪から外れて落ちたのだろう。私が作った革製の、肉球を模ったチャーム。

 首輪を猛烈に嫌がった小さな子猫だったクロマルが、このチャームを付けたら、なぜか大人しく受け入れた。


 クロマルの見開いた目と、置き物のように固まって倒れる様子が、頭の中で何度も繰り返し再生される。

 クロマルの心と身体が心配で、居ても立ってもいられなくなる。


 追いかけよう。


 私はマスターとしては出来損ないかもしれないけれど……。クロマルの親代わりとしての役割は誰にも渡す気はない。


 ラジコンジープの充電を確認してから、大急ぎで、ぐでたまのぬいぐるみを着る。


 完成したばかりのドローンを積み込んで家を飛び出す。人目につくことを気にしてる場合ではない。私とクロマルの一大事だ。



 早く追いついて、クロマルを抱き締めてあげないと。



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