幕前
その事件は、良く晴れた日のある夕方に起きた。
いつも通りの部活の帰り道。僕は、ハラペコで騒がしい胃を押さえながら、自転車を走らせていた。
ああ、ハラヘッタ……。今日は給食のお代わりが、二回しか出来なかったからなぁ。三回目はジャンケンとか、マジでキツイ。
ペダルを踏む足にも力が入らなくて、ヘロヘロと惰性で進んでいた。
ふと見ると、道の反対側を歩く女子高生たちが何やら指差して、きゃあとか、かわいいとか、華やかな声を上げている。
制服の彼女たちが指差す先には、見覚えのあるラジコンジープが、歩道の真ん中を爆走していた。
エクーが魔改造してくれた、僕のお古のラジコンジープだ! でもカナリさんは、家の中でしか使っていなかったはず。
運転席にはこれも見覚えのある、ぐでたまのぬいぐるみ。中身はエクーかカナリさんか……。どちらにしても、きっとタダゴトではない。
僕は両手のブレーキを握り込むのと同時に、左足を軸にして、力づくで自転車をUターンさせた。
「カナリさん? エクー? 何かあったの?!」
運転席のぐでたまが、人目も気にせずに勢いよくその頭を後ろに跳ね除けた。
肩までの茶色い髪が、ふわりと風に広がる。
カナリさんだ!
「シュウくん! クロマルが……クロマルが連れて行かれちゃったの!」