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秘密のクロマル  作者: はなまる
第四章 二人目のマスター
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第八話 佐伯家の日常

「カナ、カナ! ほら見て見て!」


 私とエクーが飛行訓練から戻ると、母さんがパタパタとスリッパを鳴らして、ご機嫌な様子で迎えてくれた。


「今日はワンピース作ったの。ごはん食べたら着てみてちょうだいね!」


 うわっ、エプロンドレスだよ!


 極細のストライプ模様、淡いオリーブグリーン、ふわりと膨らんだパフスリーブ。大草原の小さな家だ。赤毛のアンだよ!


 母さん、好きだもんなぁ。


「母さん私、二十一歳なんだけど……」


「いやぁね! 知ってるわよ娘の年齢くらい。ちゃんと機能的なのよ?」


 母さんは洋服を作るのが得意だ。子供の頃、私の服は全て母さんのお手製だった。


「小さい服はすぐできるし、なに作っても可愛いし、もう母さん楽しくって!!」


『ドールソーイング』というジャンルがあるらしい。人形サイズの小さな服を作る。


「おまけに着てくれる小さい人が二人もいるのよ!」


 ドハマリしている。楽しそうで何よりだ。


「母君、本日も世話になる。かたじけない」


「ふふふ。エクーは今日もカタイのね。ステキよ」


 エクーはなぜか、母さんに全然頭が上がらない。


 手洗いうがいを済ませてから、母さんと一緒にキッチンに立つ。父さんが私専用のキッチンスペースを作ってくれた。


「今日はコロッケなの。下ごしらえ済んでるるから、パン粉つけたりは自分でやってね」


 私用の小さなまな板の上に、トンッとひとかたまりのコロッケの具が置かれる。


 私たちには少し大きすぎるジャガイモを潰し、ひき肉を小さくする。パン粉も軽く揉んで細かくする。


「揚げるの母さんがやるから、カナは油に近づかないでね。危ないわ」


 助かるなぁ。揚げ物は命がけなんですよ!


 このサイズになってから、料理はなかなか苦労している。まず手にしっくり来る刃物がなかった。彫刻刀の持ち手を付け替えたものや、ツールナイフを使っていたんだけど、先日父さんが知り合いの金型職人さんに、私サイズの包丁を特注してくれた。


 あと、どうしても改良が必要なのが、革細工に使う電気ペン。もっか父さんとエクーと三人で相談中だ。



 キャベツの千切りや味噌汁の具も、小さく刻み直す。今日はワカメと豆腐の味噌汁だ。


 汁物はエクーと私の適量に分けると、あっという間に冷めてしまう。なのでお行儀は悪いけれど、普通サイズのお碗から直接食べている。


 きゅうりとタコのサラダをちょっとつまみ食い。うん! 美味しい。


 さっくり揚がったコロッケで、白いごはんが進む。やっぱり白米はある程度量を炊いた方がおいしいな! 

 私とエクーだと、一食二十粒くらいで充分なので、とても炊飯器を使うことは出来ないのだ。


「今ね、エクーの服を作っているの。地球風カジュアルな服も必要でしょ?」


 食後に母さんが嬉しそうに取り出したのは、私のワンピースとエクー用のウエスタン風味のシャツだった。


 エクーのシャツには、襟とカフス部分に刺しゅうが入っている。母さん、よくこんな細かい刺しゅうが出来るなぁ。普通の大きい人なのに。


「ねぇカナ、コレでテンガロンハット被ったら、カッコイイと思わない?」


 デザートに食べていた、リンゴとバナナ入りヨーグルトの器を、コトリと置く。


「同色の革のベストも! あとウエスタンブーツ!」


 私の革細工師魂に、火が点いた。


 ちなみに父さんは今、私とエクーがちゃんと使えるダイニングセットを作ってくれている。私の物作り好きは、DNAに刻み込まれたものだ。


 数日後、見事なカーボーイに仕立て上げられたエクーは、照れくさそうにテンガロンハットを目深に被った。


 めっちゃ似合う!


 エクーが『カナリ、街の人たちとは少し違う服装に見えるが?』と言っていたので、西部劇の映画を何本か見せてあげた。夢中になって見ていたと思ったら、自前の銃でガンアクションを練習しはじめた。


 エクーは辺境宙域の冒険家なので、自前の銃は殺傷能力のあるホンモノだ。暴発には充分に注意して欲しい。


 ちなみにエクーは時代劇も大好きだ。今は母さんが大喜びで着流しを縫っている。父さんは父さんで金型職人さんに、エクーサイズの小さな日本刀を注文しそうになったので、それは()めておいた。


 ガルーラの背で日本刀を振るう宇宙人は、格好良いかも知れないけれど何か違う気がしたからだ。


 佐伯家の小さい物ブームは、まだまだ続きそうだ。




 






続きは14時投稿。

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