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秘密のクロマル  作者: はなまる
第四章 二人目のマスター
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第五話 佐伯家の食卓 ①

 ベランダから入ると、クロマルとシラタマが待っていてくれた。改めて騎乗して、ふよふよと浮かびながら階段を降りる。久しぶりの実家だ。小さくなっても目線が天井近くになっても、懐かしいことに変わりはない。


 エクーはシラタマの背中で、翻訳の設定を確認している。翻訳うちわは、言葉の調子から親密度や心情を反映させてしまう。


 つまりさっきのエクーのなんちゃって侍言葉は、礼儀正しく、最大限の敬意を以って、謝罪の意を伝えようという、エクーの心情に相応しいとAIが判断した結果らしい。


 緊張もしていたんだって。エクーも可愛いところがあるじゃない?


 リビングに入ると、母さんはキッチンに立っていた。父さんが私たちを見て、ソファから立ち上がる。


 クロマルから飛び降りながら『父さんただいま!』と声をかける。父さんは『あ、ああ。お帰り……』と言って、ソファに倒れるように腰を下ろした。


 眉根に皺を寄せて、それきりこっちを見ようとしない。


 ヤバイ。かなりのショックを受けている。でもどちらかと言うと、父さんの反応の方が普通なんじゃないかな?


 久しぶりに帰ってきた娘が、十四センチ弱の大きさになっていて『もう、心配させないでよ』で済む母さんの方がおかしい。


 ふとテーブルの上を見ると、私とエクーの席があつらえてあった。小さなテーブルと小さな座布団が二つ。


「すぐにごはんになるから、手洗いうがいをして来なさい」


 幼い頃から帰宅するたびに、何度も何度も、繰り返し言われたセリフだ。


 いつも通りが嬉しくて、つい『はぁーい!』と子供っぽい返事をしてしまった。


「テーブルの上に上がるから、足も洗って頂戴ね……あっ! 待って待って!」


 母さんがパタパタとスリッパを鳴らして、小皿にお湯を入れて持ってきてくれた。


「その大きさじゃ、洗面台は危ないわね!」


 チャプチャプと手足を洗う私とエクーを、ニコニコしながら眺める母さん。


 父さんは『カナ……』とひと言呟いたあと、目頭を押さえて部屋を出て行ってしまった。


「しばらく、そっとしておいてあげてね。男の人は変化に弱いから」


 母さんが動じなさ過ぎだと思うけど?


「母さんはショックじゃないの? 娘がこんな小さくなって」


「うーん。びっくりしたけど、病気じゃないんでしょ? カナが決めたことなら応援するわよ。別に小さくなっただけで、母さんの娘じゃなくなったわけじゃないもの」


 そう言って母さんは、いつも通り笑った。変わってしまった自分を、こうも軽やかに受け入れてくれる。

 自分の母親ながら、その強さとしなやかさに、圧倒される。


 そうか。私は最初から、ひとりじゃなかったんだ。


 濡れた手足のまま母さんの膝によじ登り、おなかのあたりにぎゅうと抱き着く。


「ごめんね母さん。黙って小さくなってごめん。隠していて、ごめんなさい」


「そうよ! 困っていたなら帰って来れば良かったのに! 意地張ってたんでしょう? バカね、もう!」


 母さんの目尻に涙がにじんだ。私の目からもポロポロと落ちる。ダメだなぁ。最近泣き虫で困る。ひとりの時はけっこう平気だったのに。


「さ、ほらほら! 席に着いて。ごはんにしましょう!」


 エクーに先に座ってもらって、私は父さんを呼びに行くことにした。いつまでも放っておくわけにはいかない。



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