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秘密のクロマル  作者: はなまる
第四章 二人目のマスター
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第三話 帰省 クロマル初飛翔

「行ってきまぁーす!!」


 見送りをしてくれている、シュウくんに手を振る。突貫の飛行訓練が一段落したので、私の故郷へと向かうことになった。もちろん飛んで行く。


 私はクロマルに、エクーはシラタマに乗って夜空へと駆け上がる。 シュウくんの姿があっという間に遠ざかり、見慣れたご近所が夜景となって闇に浮かぶ。


 上を見れば冴え渡る上弦の月、見渡すかぎりの満天の星空だ。暗闇に浮かんで見る光は、地上も空もどちらも甲乙つけがたい。


 真冬の空を生身で飛んでいるのだけれど、ガルーラは飛ぶ時に体毛が伸びる。ふわりと立ち上がり、暖かい空気の層を作ってくれる。


 首のあたりの長い毛に、埋もれるように身を伏せて、オレンジ色の光に包まれる。うっとりするような景色とシチュエーションだが、私もクロマルも、それどころではない。


 なんせ体育館の外に出たのは、今夜が初めてなのだ。ぶっつけ本番って、ちょっと無茶だと思う。


 深夜の体育館での特訓は、一ヶ月以上続いた。これは私がドン臭いからではない。断じて違う。


 エクーの一族では、ガルーラが成体になるまでの二年間で、ガルーラのことを勉強したり訓練したりするらしい。


 私の場合は、短期集中の猛特訓だ。


 エクーに文句を言ったら『大丈夫だ。カナリは本番に強い』と言っていた。そんなことを言われたら、つい頑張ってしまうじゃないか! 私の師匠は弟子をよくわかっているらしい。


 とにかく落ちないように、クロマルの動きを妨げないように。今の私には、それだけで精一杯だ。

 正直、景色を楽しむ余裕も、居眠りする度胸もありはしない。


 エクーがのんびりと、低い声で歌ってる。普段から歌っているように聞こえるエクーの星の言葉だけれど、歌は別にちゃんと存在している。


 ガルーラ乗りの歌は、ガルーラに働きかけるために歌われる。


 気分を落ち着かせる歌。

 注意や警戒をうながす歌。

 穏やかな眠りへと誘う歌。

 緊急事態に対応するための歌。


 私がクロマルと夢の中で何度か聞いたのは、気分を落ち着かせる歌だった。エクーが以前歌ってくれた子守唄は、眠りを誘う歌だ。


 ところが教えてもらった歌を、私がいくら歌っても、クロマルに働きかけることはなかった。発音が正確ではないせいなのか、私にその能力がないのか……。


 私の歌はなんの効果もない『ただの歌』だ。


 私が歌っても、クロマルは喜んでくれるだけ。まぁ、嫌がられるよりは、いいんだけどね。


 エクーは『歌わずにガルーラと寄り添えるなんて、それこそ羨ましい』と言ってくれるけれど、それではいざという時に困るかも知れない。

 熟練度の問題かも知れないから、諦めずに練習しようと思っている。


 時々、色々なタイミングで、エクーはやっぱり別の星の人なんだなぁと思う。自分が同じサイズになって、気付いたこともある。


 エクーの目には瞬膜(しゅんまく)がある。猫や鳥にある、反射神経で眼球を守る半透明の膜だ。


 エクーの瞬膜はとても透明度が高いので、じーっと見つめないとわからない。


 そして眉毛とまつ毛が、ほとんど生えていない。瞬膜があるから、必要ないのだろう。


 目の前でパンっと手を叩いてみたら、目を開いたまま瞬膜が閉じた。反射神経で閉じて眼球を守り、しかも見えるのだ。なんて素敵仕様。


 これはこの先ガルーラ乗りとして、危険に対処しなければならない私としては、かなり羨しい。


 ゴーグルを作って使っているけれど、咄嗟に目を閉じてしまう癖はなかなか治らない。そんなことできるのって、武術の達人クラスじゃない?


 風の音が変わったことで、ふと我に帰る。故郷と都会とを隔てる山を、いつの間にか越えていた。普段は電車で一時間半の距離が、直線だと驚くほど近い。


 久しぶりの帰省。昨日、両親宛に長い長いメールを打った。


 タイトルは『とても大切なお話があります』。


 四時間もかかった。


 まず、一文字目を書きはじめるまでに、二時間近くを費やした。部屋をウロウロ歩き回ったり、意味もなく着替えたり、急に逆立ちしたくなったり……。


 しばらく鳴りを潜めていた現実逃避さんが、随分と楽しそうに仕事をしていた。


 ようやく書き上げた長い長いメールの最初の文章は、こんな風にはじまっている。


 父さん、母さん。一生をかけて全うしたい、人生の目標ができました。あなたたちに胸を張って報告したい。


 そして、できれば、応援して欲しいです。



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