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秘密のクロマル  作者: はなまる
第四章 二人目のマスター
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第二話 飛行訓練

 騎乗帯とハーネスは私が作った。


 エクーにガルーラ用の騎乗帯の資料を出力してもらい、スカイダイビング用ハーネスを参考にした。

 空を飛ぶのだから、正に命綱だ。素材も縫製も、妥協せずに時間をかけて仕上げた。


 場所はシュウくんの通っている、中学校の体育館。シュウくんはバスケ部のキャプテンなので、体育館の鍵を持っているのだ。


 不法侵入と職権濫用です。ああ、善良な中学生の手を悪事に染めてしまったよ……。


 私が自己嫌悪に陥っていたら、エクーが『小さいから大丈夫だろう? 野良猫が入り込んで遊んでいるようなもんだ』と、しれっと言って笑った。


 宇宙怪獣二匹ですけどね!



 深夜二時。


 丑三つ刻の学校になんて、近づきたくないが仕方ない。


 そして真冬の体育館の寒いことったらもう! ブルブル震えながらクロマルのお腹の毛に潜り込んだ。


 まずはエクーの模範飛行を見せてもらうことになった。体育館はカーテンを閉めたまま、ステージの電気だけを点けた。


 今日は初日なので、シュウくんも見学に来た。こっそり家を抜け出して来たらしく、少し眠そうな顔をして白い息を吐いている。


 騎乗帯を付けたシラタマに、エクーが跨る。ガルーラの騎乗に、鞍や手綱は使わない。腰ベルトの金具を騎乗帯と連結し、シラタマの首回りの毛に埋もれるように、ピタリと身を伏せる。


 エクーが耳元で囁くように歌うと、シラタマは最初、耳をペペペと動かして、目を細くしていた。ガルーラ乗りの歌には特別な力があるらしい。


 やがて、エクーの歌の調子が変わると、シラタマの白い柔らかな毛並みと、エクーの燃えるように赤い髪がふわりと立ち上がった。


 徐々に二人をオレンジ色の光が覆ってゆく。


 シラタマの薄い水色の瞳が青みを増して、毛と上顎の牙の長さがスルリと伸びる。わずかに残る幼さが息を潜め、精悍さが前に出る。


 それは獣と呼ばれるに、相応しい姿だった。


 エクーを乗せたシラタマが、音もなくスーッと宙に浮いた。ゆっくりと地面と変わらぬ様子で宙を歩く。シラタマの足先に光の渦が集まり、光雲を纏っているみたいだ。


 足場にした宙に、オレンジ色の波紋が広がる。


「うわあ……」


 シュウくんが、そのあとの言葉を失くしたように黙って、我慢できないといった様子で立ち上がった。


 シラタマの宙を蹴る足が、だんだんと速くなり、力強さを増していく。オレンジ色の波紋が広がるたびに、リーンと微かで涼やかな音が響く。


 エクーが金属質の道具を物入れから取り出した。握り込むような動作すると、ジャキッと杖のように長く伸びる。


 二本の杖を両手に持ち、シラタマの足の動作を追いかける。エクーの杖は、シラタマの補助の役割があるようだ。加速や飛距離を調整しているように見える。


 まるでそこに、足場や壁があるみたいな動きだ。宙を蹴り、自由自在に方向を変え、光の波紋を広げながらしなやかに滑らかに飛び回る。


「うわぁー! うわぁー! すっげぇ! めちゃくちゃカッコイイ!」


 シュウくんが、頬を紅潮させて歓声を上げた。


 うん、これは――! 予想以上だ。予想以上に……命がけだ。


 シラタマとエクーは今夜が初飛行のはず。それなのに、まるで長年の相棒のように息の合った動きだ。

 これがガルーラの飛翔か。これがガルーラ乗りの技術なのか! 私とクロマルに、こんなことが出来るようになるのだろうか?


 ふとクロマルを見ると、薄っすらとオレンジ色の光に覆われていた。私の方をじっと見つめている。


 やる気まんまんだよ! わかった、わかったよクロマル。私も頑張るよ!




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