第十七話 きみに届け
シュウが目が覚ましたので、買い物に行ってもらった。この星で市販されている薬品やその他の、使えそうなものを頼んだ。
通貨について悩んでいたらシュウが『僕お年玉もらったから大丈夫!』と、有り難い申し出をしてくれた。お年玉とは、年始に子供に振るまわれる祝儀らしい。
年若い者に金銭的に負担をかけるのは非常に心苦しいが、頼れるのはシュウの懐だけなので仕方ない。
「ただいまエクー」
シュウが階段を駆け上がり、途中から足音を潜め、そっとドアを開ける。眠るカナリと、ガルーラ二匹を思いやっているのだろう。優しい子だ。
「こっちが栄養ドリンクで、コレが熱冷ましの薬とサプリメント色々。こっちがスポーツドリンク。あとエクーの晩ごはん」
ホカホカと湯気を立てる、白く柔らかそうな食べ物だ。『肉まん』という名前らしい。
白くて柔らかなそれを、シュウがパカリと四つに割ると、途端にスパイシーな香りが漂った。
さて、どこから口を付けたら良いものやら……。礼を言い両手に抱えてかぶりつく。シュウも残りをはぐはぐと口にした。
「エクーの星の人とは、連絡取れたの?」
「ああ。すぐに地球への派遣を話し合うそうだ。それでも三ヶ月はかかるだろうな」
「へぇ! ワープとかするの?」
「うん? 空間航法か? とりあえず機密事項だな」
私が唇に指をあてて言うと、シュウの目がキラキラと輝いた。子供が秘密を好むのは、地球人も同じらしい。
「すっげぇ! SF映画みたいだ!」
こういう話をしていると、シュウは感嘆符が多くなり、年相応の少年らしい顔になる。
「おね……カナリさんの容態は?」
「クロマルとの回路は一時的に遮断したから、これ以上小さくなることはないだろう。だが、存在力の一時的な欠乏状態がな」
「それ、僕の漏れてる分、あげられないかな?」
そう言いながら、カナリの額にそっと指を添える。
「存在力の大切さは教えただろう? シュウの成長に使う大切なものだ」
「うん。でも、少しだけやってみる」
カナリの暴走は想定外だった。あれほどの暴走例は、一族の長い歴史でも記録すらない。
「ちっちゃ過ぎて、よくわかんないや。エクー、触らないとダメなの?」
「その方が効果的みたいだな」
ガルーラを介さない存在力のやり取りなど、私に確かなことが言えるはずがない。未知の現象だ。
「お姉さん、ごめんね」
シュウが呟くように言い、カナリの身体を両手で包む。その様子は真剣そのものだ。
「ねぇエクー。一度小さくなったら、例えば僕の存在力をたくさんカナリさんにあげても、もう元には戻らないの?」
「そんな事例はないが、カナリは我らとは違う生き物だからなぁ……。だがそんなことは、カナリは望んでおらんぞ。シュウの成長に必要なエネルギーだ。使ったりしたら、カナリはきっと悲しむ」
「うん。でも今は、非常事態だから少しだけ」
シュウが言いながら、祈るように目を閉じる。
「エクー、僕の存在力、カナリさんに届いてる?」
「ああ。ちゃんとカナリが受け取っている」
「あ、ほらエクー! 笑った! カナリさん、笑ってるよ!」
シュウが、潜めた声で嬉しそうに言った。
届いているさ。
シュウの存在力もシュウの気持ちも――。きっとカナリに届いている。
第四章、終了です。第五章 第五章 13.8センチの世界。投稿は12時。