表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密のクロマル  作者: はなまる
第四章 二人目のマスター
64/96

第十七話 きみに届け

 シュウが目が覚ましたので、買い物に行ってもらった。この星で市販されている薬品やその他の、使えそうなものを頼んだ。


 通貨について悩んでいたらシュウが『僕お年玉もらったから大丈夫!』と、有り難い申し出をしてくれた。お年玉とは、年始に子供に振るまわれる祝儀らしい。


 年若い者に金銭的に負担をかけるのは非常に心苦しいが、頼れるのはシュウの懐だけなので仕方ない。


「ただいまエクー」


 シュウが階段を駆け上がり、途中から足音を潜め、そっとドアを開ける。眠るカナリと、ガルーラ二匹を思いやっているのだろう。優しい子だ。


「こっちが栄養ドリンクで、コレが熱冷ましの薬とサプリメント色々。こっちがスポーツドリンク。あとエクーの晩ごはん」


 ホカホカと湯気を立てる、白く柔らかそうな食べ物だ。『肉まん』という名前らしい。


 白くて柔らかなそれを、シュウがパカリと四つに割ると、途端にスパイシーな香りが漂った。


 さて、どこから口を付けたら良いものやら……。礼を言い両手に抱えてかぶりつく。シュウも残りをはぐはぐと口にした。


「エクーの星の人とは、連絡取れたの?」


「ああ。すぐに地球への派遣を話し合うそうだ。それでも三ヶ月はかかるだろうな」


「へぇ! ワープとかするの?」


「うん? 空間航法か? とりあえず機密事項だな」


 私が唇に指をあてて言うと、シュウの目がキラキラと輝いた。子供が秘密を好むのは、地球人も同じらしい。


「すっげぇ! SF映画みたいだ!」


 こういう話をしていると、シュウは感嘆符が多くなり、年相応の少年らしい顔になる。


「おね……カナリさんの容態は?」


「クロマルとの回路は一時的に遮断したから、これ以上小さくなることはないだろう。だが、存在力の一時的な欠乏状態がな」


「それ、僕の漏れてる分、あげられないかな?」


 そう言いながら、カナリの額にそっと指を添える。


「存在力の大切さは教えただろう? シュウの成長に使う大切なものだ」


「うん。でも、少しだけやってみる」


 カナリの暴走は想定外だった。あれほどの暴走例は、一族の長い歴史でも記録すらない。


「ちっちゃ過ぎて、よくわかんないや。エクー、触らないとダメなの?」


「その方が効果的みたいだな」


 ガルーラを介さない存在力のやり取りなど、私に確かなことが言えるはずがない。未知の現象だ。


「お姉さん、ごめんね」


 シュウが呟くように言い、カナリの身体を両手で包む。その様子は真剣そのものだ。


「ねぇエクー。一度小さくなったら、例えば僕の存在力をたくさんカナリさんにあげても、もう元には戻らないの?」


「そんな事例はないが、カナリは我らとは違う生き物だからなぁ……。だがそんなことは、カナリは望んでおらんぞ。シュウの成長に必要なエネルギーだ。使ったりしたら、カナリはきっと悲しむ」


「うん。でも今は、非常事態だから少しだけ」


 シュウが言いながら、祈るように目を閉じる。


「エクー、僕の存在力、カナリさんに届いてる?」


「ああ。ちゃんとカナリが受け取っている」


「あ、ほらエクー! 笑った! カナリさん、笑ってるよ!」


 シュウが、潜めた声で嬉しそうに言った。



 届いているさ。


 シュウの存在力もシュウの気持ちも――。きっとカナリに届いている。







第四章、終了です。第五章 第五章 13.8センチの世界。投稿は12時。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ