第十五話 二人目のマスター
シュウくん視点。
「…………こえだせー、はしれー、手ぇあげろー」
ジャンプする。
あれ、試合中かな? じゃあシュートしなくちゃ。ゴールはどこ?
ジャンプする。
びっくりするほど高く跳べる。これなら、ダンクシュートできるかも。憧れのダンク。僕の背じゃ、小学生用のゴールでも出来やしない。
ジャンプする。
いつまでたっても地面に降りていかない。まるで飛んでるみたい。夢みたいだ!
……いや、夢だろうなコレ。
ふわふわと漂いながら、辺りを見渡すとオレンジ色の光をまとったクロマルがいた。
クロマルが泣いてる。スーパーのお菓子売り場で、ひっくり返って泣いてる子供みたいな泣き方だ。ちょっと笑ってしまった。
おい、クロマル! なに泣いてんだよ。男はそんな泣き方しちゃダメなんだぞ! そんな泣き方するのは四歳までだ!
「カナちゃんが小さくなっちゃった!」
えっ? だって、クロマルがやったんだろう?
「違うよ! ぼくは飛べなくてもいいと思ってたんだ。この星の猫みたいに。カナちゃんと一緒なら地面に住んでもいいと思ってた!」
お姉さんは、クロマルと一緒に宇宙を旅するって言ってたぞ?
「足りないんだよ。ぼくが大人になる頃には、カナちゃん小さくなって消えちゃう」
ええっ!? それはダメだよ! そんなのダメだ!
「せっかく、シュウの洩れてる分でがまんしてたのに! カナちゃんからもらうの、がまんしてたのにぃ!」
なんだよ、僕の存在力に文句があるのかよ! 好きで洩らしてたわけじゃないぞ!
「シュウの存在力は好きだけど、マスターじゃないから……。それともマスターになってくれる?」
えええっ? 僕もマスターになれんの? それって僕も小さくなるってこと? エクーくらい?
「そんなにたくさんじゃないよ。カナちゃんの足りない分……たぶん十五センチくらい」
バカヤロー。僕の身長いくつだと思ってるんだよ! 157センチだぞ? 十五センチ縮んだ142センチだ。……無理だよ。
「シュウはまだまだ大きくなるよ。ぼくにはわかる。ぼく、それまで待つよ!」
へぇ! どのくらい大きくなれるの?
「うーんとね、うーん。あ、こーち? あの人よりは大きくなるよ」
こーち? バスケ部のコーチのこと? あの人、身長185センチ超えだぞ! 185くらいになれるなら、十五センチくらい減ってもいいかな?
うん、いいよ。クロマルのマスターになる。
「えっ? いいの? ちゃんと考えた?」
だって困ってるんだろ? お姉さんもクロマルも。お姉さんが困っていたら、僕の出番なんだよ。
「マスターになったら、ぼくと離れられないよ。ガルーラはマスターと共に生きる。ぼくと共に生きるってことは、カナちゃんとも一緒だってことだよ」
なんか、プロポーズみたいで照れる。カナリさんとずっと一緒とか、望むところだ!
「むーん。カナちゃんは、ぼくのマスターだから!」
アハハッ! やきもち焼くなよ! 僕もクロマルのマスターになるんだろ?
「これからずっと、ぼくと一緒にカナちゃんを守る? 誓える?」
誓い? 誓いって言うとちょっと怖いけど、約束するよ。クロマルと一緒にお姉さんを守る。
「忘れない?」
うん。そんな大事なこと、忘れないよ。
「カナちゃんは何度約束しても、すっかり忘れちゃってたんだよ」
クロマルが少しふくれっ面をして言った。
「おかげで、カナちゃんに悲しい想いをたくさんさせちゃった。ぼくはカナちゃんが笑っているのが好きなのにさ」
それを聞いて、僕はクロマルとの絆みたいなものを感じた。僕らはきっと、同じ気持ちでお姉さんのそばにいる。
「カナちゃんさぁ……。へにょって笑うよね!」
笑う笑う! へにょって笑うよな! あれがいいんだよ!
ところでクロマル、存在力って、いつどうやって渡すんだ?
「うん、でもちょっと待って。ぼくちょっと頑張らないと。カナちゃんの存在力、無駄にするわけにいかないから」
クロマルの意識が急激に離れてゆく。きっと、もうじき目が覚める。
僕は、クロマルの二人目のマスターになったらしい。もう……部外者じゃない。
もう覗き見したり、こっそり後を尾行けたりしなくていいんだ!
ここはもう、蚊帳の外なんかじゃない。




