第十三話 溢れる想い
「うむ。やはり幼い個体の出力は、抑えられているようだ。シュウの洩れている分は、何とかせんといかんな」
「えっ! 僕、洩れてるの? だから身長が伸びないの?」
「そうかも知れん」
「その漏れちゃったの、もしかして……」
「ああ、クロマルが回収している」
クロマルがうちでごはんを食べなかった時って……。もしかして、シュウくんのダダ漏れ存在力をもらっていたのかなぁ。
「そういえば最近、僕のあとをやけに着いて来ていたかも」
やっぱり! 私が不甲斐ないばっかりに。シュウくん、なんかごめんね!
「どうせ洩れちゃってた分でしょう? クロマルがもらってくれたなら良かった」
シュウくんが、少し照れ臭そうに笑う。もう! なんて良い子なんでしょう!
でも背が伸びないのは困るよね? エクー、どうにかならないの?
「一族の研究機関に問い合わせてみよう。地球人の特殊性についても、報告しなければならないし」
ガルーラを介さずに存在力のやり取りをしている地球人は、エクーの一族にとっては、やはり大きな関心ごとなのだろう。
「宇宙は広いな。まだまだ驚きと発見に満ちている」
エクーが珍しく、辺境宙域の冒険家らしいことを呟いた。
「ユエはこの星のことを、知っていたのかも知れんな。だから子供を抱いて、この星を目指した」
『ユエ』はクロマルのお母さんの名前で、エクーのパートナーだ。
クロマルを地球に送り届けるために、燃え尽きることを選んだユエさん。遠い昔に、最初のガルーラの子供を守って燃えた、名前も知らない母ガルーラ。
私はまだまだ若輩者で、子供を産んだことも、欲しいと望んだこともない。あなた達には、覚悟も経験も遠く及ばないだろう。
けれど、クロマルと一緒に行ってみようと思う。行き着く先の、その向こう側まで。
クロマルがエクーを連れてきてくれた。クロマルがシュウくんと私を繋いでくれた。
そして今、人々の手に密やかな明かりが灯る。柔らかに、暖かい色で瞬きながら、想いが届く。
見れば私のクマの手も、ぼんやりとオレンジ色に染まっている。私の手は、この明かりを届けることが出来る。
両手を上げ、トートバッグから身を乗り出して、シュウくんの腕に手を添える。私の存在力は正しく届くだろうか。
キミが一緒に戦うと言ってくれたことを、私はこれからの人生で、繰り返し思い出すだろう。
エクーに向けて両手を広げ大きく振る。オレンジ色の灯りが、サイリウムのように尾を引いて揺れる。
私とクロマルのために、遠い星から来た小さな人。諦めなくて良いと、言ってくれた人。
クロマルがいつのまにか戻ってきて、シュウくんの足元でにゃーんと鳴いた。
ふふふ。ほんと猫みたい。
トートバックから飛び降りて、クロマルの首に抱きつく。
ほら、これ。クロマルのための力だよ。あげるよ、あげる。ほら、受け取って!
私は少し調子に乗っていた。オレンジ色の光の渦に、酔っているみたいだった。嬉しくて、感情が昂ぶって、抑えられない。
誰かに何かしてあげたくて堪らない。手の先から腕、腕から全身へ。熱が拡がってゆく。
止まらない。
「いかん! 暴走だ! シュウ、クロマルとカナリを回収してくれ!」
クロマルが、びっくりしたみたいに目を見開いている。シュウくんが慌てて、クロマルと私をトートバックに入れて走り出す。
熱に浮かれたみたいに、ふわふわと心地よい。クロマルの首にしがみついたまま、急速に眠りに引き込まれてゆく。
そうして、私は――。
どんどん、小さく、小さくなっていった。
続きは11時。