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秘密のクロマル  作者: はなまる
第四章 二人目のマスター
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第十一話 シュウくんの想い

 シュウくんはあっという間に来た。


 クロマルがシュウくんの部屋のベランダでみゃあと鳴いて、窓が開いて閉じて三秒。頰を紅潮させて、シュウくんが隣のベランダへと飛び出して来た。


 そのままベランダから飛び移って来そうな勢いだったので、玄関から入るようにと伝えると、無言でコクコクと頷いていた。


 きっとずっと、色々考えていたんだろう。待たせちゃってかわいそうだったな。着ぐるみ縫ってる場合じゃなかった。もっと早く呼んであげるべきだった。


 エクーには席を外してもらって、キッチンのテーブルで差し向かう。脚立で椅子によじ登っていたら、シュウくんがふわりと椅子の上まで抱き上げてくれた。


 出だしから締まらないよ!


 椅子の上にクッションふたつ敷いて、私の目の高さを調節してくれている。なんたるジェントルマン。ほんとに日本人なの? この子。


 えーと。どこから切り出したら良いだろう。


 中学生ならお年玉あげなくちゃ。でも割と情熱的なラブレターもらった相手に、お年玉渡して良いものだろうか。子供扱いするのも失礼な気がする。


 良し、新年省略! 大切な事から話そう。


「手紙読みました。色々思い返すと恥ずかしいことばかりだけれど、シュウくんの申し出や気持ちはすごく嬉しかったです」


 判決を言い渡されるみたいな顔してるよ。そうだよね。この話の流れは『でもね』って続くよね。察しの良い子だなぁ。


「私は元の大きさには、戻れないの。これからも、もっと小さくなるの」


 言葉にしてみると重い。


「私はあなたと同じ生き方は、もうできないんだよ」


 うわー。何このブーメラン。刺さる、自分に刺さるよ!


「カナリさん。あなたが一人ぼっちじゃないなら、それで良いんです」


 ううっ。なんか観音さまみたいな顔になってるよ? 中学生は普通そんな顔をしないって!


「シュウくん、私が小さくなっているの、いつから気づいてたの?」


「お姉さんがヒールの靴を履き始めた頃」


 ……ほとんど最初から気づいていたんだ。


 シュウくんは、時々私のことを『お姉さん』と呼ぶ。そうして恥ずかしそうに『カナリさん』と呼び直したりする。


 ひとりっ子の私は、お姉さんと呼ばれるのは初めてだ。思いの外くすぐったい。そして、なんだか嬉しい。


「怖くなかったの? こんな普通じゃない人と関わり合いになるの」


「カナリさんが戦っているの、なんとなくわかったから」


「戦う? 何と?」

「小さくなることと」


 ああ、困ったな。涙が出そうだ。そしてついうっかり、ほだされてしまいそうだ。


「だから僕も、一緒に戦おうと思ったんだ」


「何と?」

「宇宙怪獣とか」


 シュウくんが吹き出しながら言った。


「クロマルと?」


 私も吹き出してしまった。


「そう、クロマルと!」


 二人で声を出して笑う。




 私は隠れていた。


 誰にも見つからないように。息を潜めて暮らしていた。びっくりされるのが怖かった。普通じゃないと思われるのが嫌だった。


 仲間に入れてもらえないんじゃなくて、自分から抜けたのだと思いたかった。


 まさかこんなにすぐ近くに、一緒に戦ってくれる人がいたなんて。そんなこと思いもしなかった。


 これはヤバイ。気をつけないと手の内に置いてしまいたくなる。寒くて目が覚めた夜、無意識のうちに、暖かい毛布を手繰り寄せるみたいに。


 自戒を込めて、言わなければならない言葉を口にする。


「私が小さくなっていなくても、シュウくんの恋人にはなれないよ」


 恋人、という言葉にシュウくんが反応して赤くなる。


「僕は女の人を好きになるのは初めてだから。恋人とかよくわからない。でもカナリさんがへにょって笑う顔を、ずっと見ていたい」


 シュウくんが、不器用そうに言葉を紡ぐ。静かだけれど、とても破壊力のある言葉だ。


 たぶんこの子、無意識なんだろうなぁ。



「ところでシュウくん。“へにょ”ってなに? 私、へにょって笑ってるの?」


 大きく頷かれた。そう言えば、脱力系って言われたことがあったかも。ヤル気なさそうとか、ゆるキャラとか。


 それにしても……。初恋かぁ。責任重大だ。今後の彼の恋愛観に、悪い影響を与える訳にはいかない。


「あ、ありがとう。ごめんね。シュウくんの気持ち、すごく嬉しいけど、ごめんね」


 ああ、言葉にするのは難しい。翻訳うちわの機能で何とかならないものだろうか?




「お姉さん、その顔の模様すごく似合う」


 私が百面相の様相で悩んでいたら、意外にさっぱりした顔でシュウくんが言った。


「ホント? 嬉しいな! エクーの一族の、ガルーラ乗りの印なの」


「うん、カッコイイ! そのクマのぬいくるみは?」


「えっ、ああ。外に出るから。エクーと調査に行くの。シュウくんも一緒に行こうよ」


「一緒に行っていいの? すげぇや!」


 弾けるように笑顔になる。十四歳の少年らしい、怖いもの知らずの、無敵の笑顔だ。


『笑う顔を見たい』。


 うん。良いね! 私も、シュウくんの笑った顔がもっと見たいよ!


 お互いに子供のふりとか、騙されてるふりとか。私たちの間には何枚も壁があった。それが、やっと全部なくなった。もう隠し事も嘘も、誤魔化しも必要ない。



 それだけで、今は良いのかも知れない。


「あっ!」


 シュウくんが声をあげる。


「へにょって笑った!」


 もう! なんでそんなに嬉しそうなの!



 そのあとエクーも呼んで、シュウくんの質問に色々答えたり、調査について作戦を練ったりした。


 シュウくんは終始とても楽しそうで、なんだか私もどんどん楽しくなった。



 あ、ところでシュウくん。存在力って意味わかった? わかったら、お姉さんにちょっと噛み砕いて説明してくれると嬉しいな!



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