第八話 冒険家エクーと調査準備
「地球人の手から、存在力が流れているんだ。ほんの微量だがな。おそらく何十年も続けて、ようやく数センチ分といった量だろう」
「垂れ流しって事ですか?」
「もう少し考察と外に出ての検証が必要だが、自分の意思で触れる事が発動キーになっているのではないか?」
いや、聞かれても私わかりませんて。第一存在力の定義すら理解できていない。クロマルのごはん、ってくらいに考えてましたから。
それに、外に出て検証って……。他の人の存在力を調べるって事?
▽△▽
「へぇー! エクーの仕事、冒険家なんだ!」
「冒険家というか、辺境宙域や未開発惑星の探索と調査だな。宇宙開発は金も時間も莫大な一大事業だ。その点ガルーラ乗りは比べものにならないくらい身軽だ」
チクチクと縫い物をしながら、エクーの話を聞く。
『未開発惑星の探索と調査』かぁ。パワーワードてんこ盛りだな。
「地球は辺境宙域の未開発惑星なの?」
「未開発というわけではないが、いかんせん他の文明がある星と離れ過ぎている。コストがかかり過ぎるんだ。よほど物好きなガルーラ乗りくらいしか、近寄りもしないな」
グレイさんとか、ちょっと来てるっぽいですよ?
「ああ、こんな感じの人たちかい?」
エクーが牙の装置を起動して、ホログラムが浮かび上がる。のっぺりとした顔、大きな目。すっかり地球でお馴染みの宇宙人だ。
「そう! その人たち! お知り合い?」
「彼らは故郷の星を失ってしまった流浪の民なんだ。大船団で移住先を探して、もう長いことさすらっている」
グレイさんたちは、エクーに辺境調査の依頼をくれるお得意様なのだそうだ。
あの小さくて無表情に見える宇宙人に、そんな事情があったのか。なんとも気の毒で物哀しい。あ、でも侵略されちゃったりするのは困ります!
「非常に平和的な民族だよ。だからこそ、なかなか安住の地が見つからないんだ」
むむ。という事は、侵略的な方法を取る人たちも存在するのか?
「過去にはそういった悲劇が、起きてしまった事もあるな」
なるほど。そのへん詳しく聞きたいです。
エクーの話は面白すぎて、すぐに縫い物の手が止まってしまう。そして肝心の存在力の話から逸れてしまう。
私とエクーは、現在チクチクとぬいぐるみ加工中だ。
私の今の身長は約六十センチ。枕より若干大きいくらいだ。外に出るにあたり、生身では無理なので、クマさんのぬいぐるみの中身を出して、着て行こうと思っている。
うちに私サイズのぬいぐるみは、クマとアザラシだけだったので、必然的にクマさんに決まった。アザラシでは身動きが取れない。
ぬいぐるみのふりをするなら、動けなくても問題ない気もするけれど、なにかあった場合はやはり困るだろう。
エクーはチクチクというより、パチパチやっている。ホチキスみたいな感じ。ハンドミシンはネットで見たことがあるけれど、それよりも作りが単純に見えるのに、使い勝手が良さそう。
下糸とか無いように見えるけど、どうなってるの? あとでちょっと使わせて欲しい。糸が特殊なのかな?
ちなみにエクーは、ぐでたまのぬいぐるみを着る。だってちょうどいい大きさで、手足のあるぬいぐるみ、他にないんだもん。
一応ぐでたまのキャラクターを説明して、シャキシャキ歩かないように言っておいた。……要注意点は、ソコではないかも知れないけれど。
『とろーり液状なんです』と私が説明した時の、エクーの表情が忘れられない。
さて、私とエクー。二人でぬいぐるみを着て、地球人の存在力とその流れを調査に出かける。調査するのはエクーで、エクーを運ぶのはクロマルだ。
つまり私は特に行く必要はない。強いて言うならば現地の通訳兼案内係かな? 翻訳うちわは、あまり離れていると言葉を拾えない。
私が着いて行くのは、純粋に面白そうだからだ。他の星の人と一緒に、地球人の隠された能力を探りに行く。こんな楽しそうなイベント、見逃したらもったいないじゃない?
同じ理由で、シュウくんも誘おうと思っている。断じて、私を運んでくれる大きな人が必要だからではない。本当だよ?
もちろんその前に、色々話さなければならないことがある。シュウくんの気持ちにきちんと向き合おうと思っている。でも、ソレはソレ、コレはコレ。
シュウくんは、このワクワク感、わかってくれるタイプの人だと思うんだ!
恩返し的な意味もあったりする。夏祭り然り、猫集会所巡り然り。シュウくんは私を、とても楽しいところに連れて行ってくれた。
このワクワクイベント、ぜひ一緒に楽しみたい。
続きは10時投稿。