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秘密のクロマル  作者: はなまる
第四章 二人目のマスター
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第七話 ポケットの中身

シュウくん視点




「シュウは、ずいぶん前からカナリを見守っていたんだな」


 改めて言われると自信がなくなる。僕がしていたのは『見守る』なんて立派なものじゃなくて、こそこそと、隠れて覗き見していただけのような気がしてしまう。


 お姉さんとクロマルの様子を見ながら、他の星から来たというその人と、ポツリポツリと情報を交換し合う。


 僕の早とちりで、お姉さんとクロマルを傷付けてしまった。心も、身体も傷付けてしまった。お姉さんの目が覚めなかったらどうしよう。


 僕はお姉さんの秘密が知りたかったし、もっと近づいてみたかった。


 だけど、こんなのは違う。こんな乱暴な方法を取るつもりじゃなかった。


 お姉さんとクロマルがベランダから落ちて、慌てて駆けつけようとする僕の肩に、小さな人が飛び乗った。


 彼の名前はエクー。遥か遠くの星から、宇宙を旅して来た人。


 エクーの話は、僕の想像を軽く超えていた。僕が毎朝会っていた猫は宇宙怪獣で、お姉さんはクロマルに乗って宇宙を旅するって?


 とんでもない話になって来た。


 お姉さんの秘密について、僕は色々な仮説をたてていた。異世界の人、宇宙人、未来人、秘密組織の人。


 まさかクロマルが原因だったなんて、考えてもみなかった。


 僕は猫に似た動物に乗って飛ぶ人たちや、小さな人の住む街を思い浮かべてみる。それはまるで、映画やアニメのようで、美しくて楽しい光景だった。


 お姉さんは、もう独りぼっちじゃなくなったのだろうか? 同じくらいの大きさの人も、受け入れてくれる場所もある。


 そこは、お姉さんが笑って暮らせる場所だろうか? そこは、僕が想像も出来ないくらい、遠い遠い場所なのだろうか。


 僕の役目は――。ここまでなのだろうか。


 僕はすっかり考え込んでいたのだけれど、視線を感じて顔を上げたら、やけに真剣な表情のエクーと目が合った。


「シュウ、折り入って話がある。我らの事情を聞いてもらえないだろうか」


 エクーは、いわゆる宇宙人だ。宇宙人に頼まれごと? そんな風に改まって言われると緊張する。

 そしてちょっと怖い。改造とか、人体実験とかだったらどうしよう。


「エクー、シュウくんを巻き込むのはやめて下さい」


 僕が返事をするよりも早く、お姉さんが目を覚まして言った。頭を振りながら、周囲の状況を確認するように見回す。


「おねえさ、カナ、りさん。あたま! 大丈夫? あっ……そういう意味じゃなくて!」


 痛くないかなって。


 しどろもどろだ! 尻すぼみに付け足した言葉が情けなくて、最初からやり直したい。


「……シュウくん。聞きたいことも、言いたいことも、言わなきゃいけないこともたくさんある。キミも、きっとそうだと思う。でも、今は帰ってくれるかな」


 ごめんね。呟くように言ったお姉さんは、ナナちゃんの時とは比べものにならないくらい大人びていた。


 こっちが――お姉さんの本当の姿だ。


「あ、あの、勝手に押しかけて、驚かせてごめんなさい。知らないふりをしていたことも、すみませんでした」


「そんなの! 私の方が嘘ばっかりだった! 騙して! 都合のいいように、振り回してた!」


 お姉さんが、泣きそうな顔をして言った。


 違う、違うんだ。僕はあなたに、そんな顔をさせたいんじゃない。


 言葉が出なくなって、ポケットに両手を突っ込んで左手でスーパーボールを握る。お姉さんとクロマルを、守るつもりで持ち歩いていたスーパーボールは、なんだかひどく滑稽に感じた。


 こんなの、子供のおもちゃだ。


 右のポケットで、カサリと紙が鳴った。クロマルに頼もうと思って、ずっと持ち歩いていた手紙。


 渡してしまおう。もう機会がないかも知れないから。


 伝えてしまおう。僕のずっと伝えたかった気持ちを。




▽△▽




「……帰ります」


 シュウくんは、うつむいたまま言った。私の言葉は、彼を傷つけてしまったのだろう。


『佐伯佳奈莉さん。僕はあなたが好きです。あなたの力になりたい。困った時は僕を頼って欲しい』



 渡された、くしゃくしゃのメモのような手紙には、そう書いてあった。



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