表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密のクロマル  作者: はなまる
第四章 二人目のマスター
53/96

第五話 ベランダ事件 シュウ

 元旦の朝、さすがに少し寝坊した。


 それでもトレーニングをサボらなかった僕は、なかなかやるもんだと自分でも思う。


 近頃は天気が悪くて走らなかった日は、どうにも調子が出ない。今年は受験生になる年だけれど、できればずっと続けていきたい。


 ランニングを終えて軽くストレッチしていると、クロマルが朝の散歩から帰ってくる。


『おはよう』と声をかけるのが毎日の日課だけれど、今日は『あけましておめでとう』と言ってみた。


 もちろん返事は返ってこない。


『クロマル!』と呼んで肩をトントンと叩くと、シュタッと肩に飛び乗ってくる。機嫌が良くないとやってくれない。


 今日はご機嫌みたいだ。


 でもそのあと、尻尾でパタパタと顔を叩かれた。コイツめ! と尻尾を掴もうとすると、ふわりと頭に着地する。


 まるで重さを感じさせない頭の上のコイツ。本当に猫なのかね?


 頭の上から顔の前に、ダラリと尻尾が垂れて来て、フリフリと左右に振った。


 おい! 股間をおでこにくっつけんなよ!


 尻尾を巡る攻防戦を、頭上の不思議生物と繰り広げる。クロマルの縦横無尽に逃げる尻尾を、パシッと捕まえる。


 ぎゅーっと握ってやったら『みぎゃー』と鳴いた。


 ふふふん。今日は僕の勝ちのようだな!


 クロマルは僕の頭から飛び降りて、何事もなかったような顔で帰って行く。


 またな! と声をかけたら、振り返ってチロリと視線を投げてきた。


 ぷぷっ! 実はクロマル、悔しいんじゃないの?


 久しぶりの勝利に、ちょっと良い気分でスポーツドリンクを飲んでいたら、お姉さんの部屋のベランダから、悲鳴が聞こえた。


『ひゃあ!』とか『きゃあ!』とかいう感じの叫び声。確かにお姉さんの声だ。


 何か考えるよりも先に、身体が動いていた。助走をつけてマンションの塀に登り、ベランダに飛び移る。


 お姉さん! 今助けに行くから!


 僕の行動は軽率だったと思う。通報されても仕方のないレベルだ。ベランダの手すりに手をかけた時に少し冷静になった。けれど、もう今更なかったことには出来ないし、お姉さんの無事だけは確認したい。


 ベランダには、頭を抱えてうずくまるお姉さん。斜めに構えて、毛を逆立てているクロマルがいた。


 そして……部屋から何か小さいものが出て来る。


 なにあれ? 人間なのか? 缶コーヒーより小さいぞ!

 もしかして、以前見かけた小さな黒い影の正体なのか?


 お姉さんは無事? うわっ! お姉さん、ちっさい! ちっさ!


 情報量が多過ぎて、思考が追いつかない。でも僕は知っている。こういう時身体は自然に動くものだ。試合の時何度か経験がある。


 僕はベランダに飛び降りると、お姉さんとクロマルを守って、小さな人と対峙した。なにか武器みたいなものを持っている。


 僕はポケットの中でスーパーボールを握りしめた。


「武器を捨ててお姉さんから離れろ!」


 僕は割とカッコイイ事を口にしたけれど、内心はビビリまくっていた。ちょっと震えているし、スーパーボールを握る手が、どんどん汗ばんでいく。


 そして。


 この期に及んで僕の頭の中を占めていたのは。


『お姉さんに久しぶりに会えて嬉しいなぁ!』



 そんな、この場にひどくそぐわない、正直過ぎる気持ちだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ