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秘密のクロマル  作者: はなまる
第四章 二人目のマスター
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第四話 シュウくんのこと

 シュウくんとは夏祭りのあとも、何度か手紙のやり取りをしている。クロマルの首輪に、おみくじみたいに結んである。


 手紙の内容は、ほとんどがクロマルのことだ。


 朝のトレーニング中に、塀から飛び降りてきてシュウくんの背中に着地したとか、近所の小学生に囲まれて、ものすごく迷惑そうに触られていたとか。


 私はシュウくんの手紙を、けっこう楽しみにしていた。


 私が知らない外でのクロマルの様子は、家族に思いもよらぬ場所で会った時のような新鮮さがあった。


 シュウくんの、幼児のナナちゃんに宛てた手紙には、全てフリガナを振ってある。


 気遣いのできる子だと思う。


 私が中学生だった頃、周りの男子のことはアホの代名詞だと思っていた。無神経に騒ぎ立てて、行き当たりバッタリで、周りも自分も傷つけていた。


 私自身も肥大した自意識を持て余す、自分勝手な生き物だった。


 夏祭りや一緒に猫集会所を廻ったシュウくんは、中学男子の無神経さとかけ離れている。


 そもそも近所の小さな子供を、なぜあんなにも気にかけるのだろう? お礼のクッキーや、カップケーキが目当てでもなかろうに。


「もしかして気づかれているの?」


 そう考えたこともある。けれど、騒ぎ立てる訳でもなく、探るような素振りも見られない。


 やはり、幼女趣味のセンが濃厚だろうか?

  

 けれど、返事を書いたりお礼の品を作っているのは、ナナちゃんの叔母である隣人、佐伯カナリだ。


 手紙にも『姪っ子がお世話になりました』と何度も書いた。


 いたずら目的で幼女のナナちゃんに近づいているとしたら、叔母の存在は致命的なはずだ。そして、シュウくんからは性的なものは感じられない。


 純粋に、幼女のナナちゃんに恋しているとしたら? それはそれでちょっと困る。いや、かなり困る。どうしていいか、さっぱりわからない。


 ごめんなさい。中の人はけっこう年食ってます。


 そんなこんなでシュウくんとは、付かず離れずの距離を保っていたつもりだった。完全に切ってしまうには、私は『部屋の外』の世界に飢え過ぎていた。


 時々ベランダから、朝のトレーニングをこっそり覗いたりなんかして。クロマルがシュウくんを、からかうような素振りを見せるのが面白かった。


 懐いているというよりも、仲の良い男の子が二人じゃれているみたいだった。


 そして今――。元旦のまったりとしたご近所の空気を、揺るがす接近遭遇である。マンションの塀から、ベランダへと飛び移ったシュウくんが、ベランダの手すりに手を掛け、上半身を乗り出している。


 我が家のベランダが、観客のいないステージのようだ。パニックを起こして、頭を抱える私、耳を倒して身構えるクロマル。


 そして……小さな小さな武器を構えて、ベランダに走り出てきたエクー。



 飛び入りであるシュウくんは、この出し物を、どう回すのだろう。脚本家も演出家もいない舞台だ。正直に言わせてもらうと……。


 た、退場したいですっっ!



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