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秘密のクロマル  作者: はなまる
第一章 小さくなる日々
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第四話 二月下旬 145センチ

 メガネ先生が私の身体の測定データを見て黙り込んだ。丸メガネの奥の目が嶮しくなる。


「一週間で、十四ミリ縮んでいます。身長だけでなく、全体的に小さくなっています」


 あまりに気が滅入るので、私は家で身長を測ることを止めてしまっていた。

 けれど、どうやら一日2ミリのペースは変わっていないらしい。

 

「思いつく限りの症例や学会のデータを調べてみましたが、あなたのような症状は見つかりませんでした。原因がわからない以上、対処法についても確かなことは言えません」


 メガネ先生は言葉を区切りながら、今日の分の計測データを手に、真剣な表情で言った。


「詳しい検査を続けながら、これ以上縮まないようにする方法を探しましょう」


 メガネ先生の真剣な様子は、かえって私を不安にさせた。自分の状態が深刻なのだと、突き付けられたような気持ちになった。

 信じてもらえなくて躍起になっていた、二週間前の自分の能天気さが恨めしい。


 ホルモン治療と睡眠中の脳波検査をすすめられた。三日程度の入院になるらしい。

 一週間後にまた診察を受けること、毎日寝る前と起きてすぐにデータをとること。そして――。


 両親に連絡するようにと言われた。


 入院して、たくさんの人たちに心配されながら、色々な検査をするのだろうか。そんな毎日を送らなければ、いけないような事態なのだろうか?


 たかがほんの少しずつ、小さくなっているだけじゃない? そんなに大騒ぎする程のことじゃない。


 私はこの期に及んで、まだそう思っていた。そう、思いたかった。


 私は病院から走って帰った。逃げ帰るとは正にこのことだろう。


 早く、早くおうちに帰ろう。クロマルが待っている。小さな可愛いクロマルと一緒に、穏やかで優しい時間を過ごすのだ。


 ロクでもない現実と向き合うなんて、真っ平ごめんだ!


 翌日私は、大学に休学届けを郵送した。友だちには、父親の海外勤務に便乗して留学すると嘘をついた。バイトも辞めた。


 両親には、大学の交換留学生に選ばれたと嘘をついた。大学を休学するのに、仕送りだけもらう訳にはいかない。


 母さんに「なんでもっと早く知らせないの!」と叱られたけれど、急に決まったからと笑って誤魔化した。


 入院はしなかった。ホルモン治療薬を一ヶ月分だけ受け取り、そのあとは病院にも行かなくなった。

 メガネ先生から直接電話があったので、もう縮まなくなったので大丈夫です! と元気良く、明るく言っておいた。

 患者の守秘義務があるから、私が治療を望まなければ騒ぎ立てられることもないだろう。


 毎日正確に2ミリずつ小さくなってゆく身長、縮んでゆく手足。少しの効果も見られないホルモン治療薬。



 もう、たくさんだった。



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