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秘密のクロマル  作者: はなまる
第三章 秘密のクロマル
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第十四話 誓いの儀式

「エクー。クロマルに、私の気持ちを伝える事は出来ますか?」


「マスターとガルーラが最も深く繋がれるのは、共に宇宙を駆けている時だ。次が夢の中で存在力の受け渡しをしている時だな」


 そういえば私も、何度も夢を見た。


「私も夢を見ました。クロマルに乗って月に向かって飛ぶ夢!」


「マスターも幼ガルーラと一緒に成長する。繰り返し夢で繋がるうちに、ある程度の意思の疎通が可能になる。だが飛んでいる時は、話すほどに深く繋がる」


「エクーはクロマルの気持ちがわかりますか?」


「この子の気持ちを一番わかっているのはカナリだろう?」


 エクーがそう言いながら、少し辛そうに笑った。半身を失ったエクーは、この先どうするのだろう。


 改めて眺めてみると、クロマルがなんとなく、シュンとしているように見える。


 ガバッと首に抱きつき、ガシガシと背中の毛をかき回す。私の気持ちが、伝わるように抱きしめる。


 バカバカ! クロマルのバカ! 遠慮なんてしなくていいんだよ! 私はまだまだ消えたりしない。


「エクー、契約に儀式とか手順とかあるの? 私は忘れてしまっているから、もう一度やり直したい。今度は絶対に忘れたりしない」


 私の身を削った存在力は、クロマルが空に舞い上がる力となり、強い宇宙の獣に育てる。私が小さくなることに意味はあったのだ。


 (しぼ)むように縮み、消えてしまうわけじゃない。


 諦めるもんか! 私はいつか、必ずクロマルと一緒に空を飛んでみせる。


 その決意表明として、マスター契約をやり直したいと思った。あと……一族に伝わる契約の儀式なんて、ちょっと素敵じゃない?


「そうだな。やるか!」


 エクーが物入れから、風呂敷のような包みを取り出した。布を開くと、細かい刺しゅうのほどこされた銀糸の長い飾り紐や帯が何本も何本も、綺麗に折り畳んで入っていた。


「これはガルーラ乗りの正式な装束だ。そうだな……これをに頭に巻いてくれ」


 手に取ると、薄く、柔らかく、驚くほど軽い。その美しい帯で髪を飾る。小さくなった暁には、肩や腰に巻いて使うものらしい。


「ガルーラは危険な生き物だ。人の住む場所を飛ぶ時は、マスターが乗っていることを知らせるために、この風帯を翻して飛ぶ」


 風に(ひるがえ)る風帯かぁ。翻訳うちわはなかなか日本語のセンスが良い。


 私の額と目の下に、エクーがガルーラ乗りの紋様を描いてくれる。エクーの一族に伝わる特殊な塗料で描かれる模様は、望まない限り、決して消えることはないのだという。


「これはその子の首に掛けてくれ。ユエが使っていた装具だ」


『ユエ』はクロマルのお母さんの名前。エクーの星では新月をそう呼ぶらしい。手渡されたのは、小さな石の入った繊細なネックレス。静かな湖のような深い緑色は、クロマルとユエさんの瞳の色だ。


 いつもは身体に余分な物をつけるのを嫌がるクロマルが、神妙に頭を下げて装具を受けた。


 香が焚かれ、エクーが拍子木を打ち鳴らし、儀式の始まりを告げた。 



「カナリ殿。クロマルのマスターとなることに、迷いはないか?」


「はい。ありません」


「普通の大きさの、人としての暮らしに、未練はないか?」


「ちょっとだけ、あります」


「正直だな!」


 エクーが笑いながら言った。


「まだ少し怖い。未練もあります。でも、私はクロマルとの未来を見てみたい」


「まあまあの答えだな」


 エクーがクククッと、喉の奥で笑った。


「誓いの言葉を」


 息を大きく吸い、覚悟を決めて言葉を口にする。もう後戻りはできない。ならば進もう。クロマルと一緒に、行けるところまで行こう。


「クロマル。共に生き、共に死のう! 星を超えて、どこまでも一緒に行こう! 私はずっと、クロマルの側にいるよ!」


 その瞬間、吸い取られる感覚が、確かにあった。そして流れこんできた感情の渦。甘えるような、安心して全てを委ねて眠るような、くすぐったい気持ち。


 これが存在力が流れる感じか。クロマルが満ち足りてゆくのが伝わってくる。


 うん、うん! 心配しなくていいよ。子供はたくさん食べて、たくさん眠るのが仕事だ。あとのことは、私とエクーで何とかしてみせる。


 私の膝に頭を乗せて、小さな子猫の頃のように、ムニムニと前足を動かす。私のクロマル……大きな黒い甘えん坊。


 私は正式にクロマルのマスターになれたのだろうか? クロマルの背中をトントンと叩きながら振り返ると、エクーが大きく頷いてくれた。


 クロマルが眠りに落ちる。私も一緒に落ちてゆく。エクーの子守唄が、小さく低く聞こえる。


 今夜のことを忘れない。今度こそ、決して忘れたりしない。


 私はこれからも、毎日少しずつ小さくなるのだろう。


 でも、もう怖くない。


 小さくなるのは、空へ、宇宙へと向かうため。クロマルと、共にあるためだもの。


 硬い結び目がほろりとほどけるように、暖かい海に沈むように。優しい眠気に包まれる。ああ、私はこんなにも、眠かったんだ。


 クロマルがゴロゴロと喉を鳴らす。この音が私は大好きだ。穏やかで満ち足りた気持ちになる。嬉しい、気持ちいい、そして眠い。


 クロマルと私の意識がシンクロして、夢の入り口へと向かう。さあ、一緒に飛ぶ夢を見よう。



 星の海をどこまでも、泳ぐように駆けてゆく夢を。





ここまで読んで頂きありがとうございます。第三章、終了です。第四章 地球のガルーラ お久しぶりにシュウくん登場です。投稿は明日の朝8時から。明日中には完結まで投稿予定です。

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