第十二話 記憶の行方
「我らの場合、存在力は意志の強さや闘志と結びついている。カルマイナのガルーラ乗りは、皆頑固者だ。マイペースと言い換えてもいい」
うんうん、なるほど。わかりやすい。エクーはいかにもそんな感じだ。
「それで、地球人は?」
「地球人というか、カナリの存在力は記憶や感情に結びついている。そして存在力が外に向かっている」
「カルマイナの人たちは契約を忘れたりしないんですよね?」
「そういう話は聞いたことがないな」
エクーが、手元に光の操作板を表示させて、何かを入力しながら話す。
「我らの存在力は内に向いている。だからガルーラに存在力を渡す時、ある意味攻防戦になる。ガルーラは基本的には“簒奪者”だ」
そうだよね。お母さんガルーラが狩りをする様子は見たことがないけれど、きっと問答無用で存在力を奪い尽くすのだ。そうでなければ災害獣などと呼ばれるはずがない。
「存在力のやり取りで、記憶に支障が出るのかも知れんな」
他にも忘れてることがあったり、どんどん忘れちゃうのはこの先困ったことになるかなぁ。いや、今までもけっこう困っていたけど。
「やはり、実際に存在力のやり取りを調べてみないと、わからんな」
そりゃそーだ。
もう隅から隅まで調べちゃって下さい。少しでも好材料が欲しい。
「カナリ殿のように、偶然出会ったガルーラの幼体と契約したのは、我らの始祖――お伽話で語られる、大昔の人物くらいだな」
「そのお話、聞かせて貰えますか?」
私と同じ境遇だったというご先祖さま。どうか、私とクロマルに力を貸して下さい。
エクーが頷いて話しはじめる。翻訳機から聞こえる日本語と、BGMのようなエクーの歌うような声。クロマルが私の膝に頭を乗せて、ゴロゴロと喉を鳴らす。
それは見知らぬ星の物語。ある晩の、宇宙の獣と青年が出会うことではじまる、むかしむかしの物語。