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秘密のクロマル  作者: はなまる
第三章 秘密のクロマル
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第十話 ホログラム

『その子を取り上げたりはしない』


 エクーはそう言った。


 でもやっぱり、エクーはクロマルを迎えに来たんじゃないかなぁ。


 クロマルは同族の仲間がエクーの星にいるならば、その方がいいかも知れない。

 それは私も同じだろう。小さい人がガルーラと生きる世界があるならば、そこの方がきっと生きやすい。


 私は既に地球人として生きるには、『一般的』からはみ出し過ぎている。


 けれど、そんな決心がすぐに着くほど、私は今の生活に絶望しているわけじゃない。


「大人のガルーラが宇宙を駆ける様子や、契約者とのやりとりを見てみたいです」


 差し向かいでお茶を飲みながら、エクーに頼んでみた。星を渡る技術を持つ人たちだ。画像や動画の保存くらいはお手の物だろう。


「その前に、その子に母親の姿を見せてあげたい。別れた時はまだ目が開いていなかったからな」


 もちろんです。そして私もぜひ見たいです。



 エクーが首から下げたペンダントを、大切な宝物みたいに服の中からそっと取り出した。真っ黒な毛を丁寧に編んだ組紐(くみひも)の先には、乳白色の牙が付いている。


「これはクロマルの?……」


「ああ。その子の母親のものだ。彼女も私の髪の毛と牙を共に逝った」


 そう言われて見れば、エクーの前髪は一房だけが極端に短い。互いの牙と毛を交換するのか。壮絶な別れだ。


 牙の側面を開き操作すると、カチリと小さな音がして、立体のホログラムが映し出される。くり抜いて多機能端末に改造してあるらしい。



 小さな……灰色ネズミのような生まれたばかりクロマルが、ムニムニと手足を動かして、必死な様子でお母さんの乳首を探している。

 クロマルそっくりの大きな黒いお母さんが、優しく身体中を舐めている。


 映像が切り替わる。


 少し猫っぽくなったクロマル。少し小さくなったお母さん。立ち上がろうとしてはコロリと転がる灰色毛玉のクロマルを、見事に長い尻尾で受け止める。


 クロマルがホログラムに近寄っていく。すり抜けて、不思議そうな顔をして、またすり抜ける。


「おいでクロマル。こっちで一緒に見よう。ほら、お母さんだよ。クロマルの、お母さんだよ」


 クロマルをぎゅうと抱きしめて、背中の毛に顔を埋める。涙が止めどなく流れた。


 ようやく立ち上がれるようになり、ヨロヨロとカメラに向かって歩くクロマル。エクーが歌うように、なにか言葉をかけている。


 ポヤポヤの灰色のうぶ毛、まだきちんと開いていない目。私がクロマルに出会った時と同じくらいだ。


 そして、お母さんは――また少し、小さくなっていた。


 クロマルがまるで映像の中の、生まれたての子猫みたいに「ミュウ」と一度だけ、小さく鳴いた。


 しばらくの間、黙ってエクーと二人、熱いお茶を啜る。私は鼻水も啜る。


「私はクロマルを、育て上げることができますか? 私はなにをしたら良いですか? お母さんの分も、出来ることがありますか?」


「ガルーラの子供は、愛情と存在力を糧として育つ。あなたはその全てを、その子にあげている。そのまま――いままで通り、共にあり、慈しんで育てれば良い。ただ――」


 エクーが表情を曇らせて口ごもる。


「足りないかも知れない」


 続く言葉を予想するのは、そう難しい事ではない。私の持っている存在力では、クロマルが必要とする分に足りないのだろう。


 そうか……クロマルが、ごはんを食べなくなったのは、きっとそれが原因だ。クロマルは私を案じて、存在力のやり取りをセーブしていたのだ。


 どうしたら良いのか。なにか方法はあるのか。大人になれなかったら、クロマルはどうなるのか。


 まだ聞きたいことは山ほどある。でも私は黙って、ただリピート再生される立体ホログラムを見ていた。



 ホログラムの中のクロマルは、やっぱり宇宙一可愛いと思った。



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