第七話 十二月 85センチ
小さくなるのは、クロマルが原因かも知れない。
私の仮説は言葉にすると、バカバカしいにもほどがある。けれど、そもそも私は毎日二ミリずつ小さくなっているのだ。すでに充分バカバカしい。
あれこれ考えてみたり、クロマルを大まじめに問い質してみたりした。
クロマルは、わかっているのかいないのか。叱られた時みたいに耳を伏せてうずくまってしまった。
その様子にこちらの胸が痛んでしまう。
怒ってないよ!
首の後ろをポンポンと叩いたら、お腹を上にしてころりと転がった。
『おなかなでてー』のポーズだ。
目を細めて、ゴロゴロと喉を鳴らすその様子は、私の知っている普通の猫と変わらない。わしゃわしゃと両手で、お腹の毛をかき回す。
柔らかな内側の毛に埋もれるように体重を預ける。人間よりも少し高い体温、規則正しく聞こえる心臓の音、ふわふわと心地良い毛並み。
ダメな人になってしまうソファより、百倍くらい気持ちいい。
クロマル、私のかわいいクロマル。
重力から自由になることがあんたの本能ならば、受け取っていいんだよ。夜空を駆けるクロマルを、私も見たいと思っているもの。
星空を泳ぐように駆ける、夜色の猫。きっと、寒気がするほど美しい。
でも、消えてしまうのは正直言って困る。ほどほどのところで折り合いが付くと良いのだけれど。
『また夢を見たら、わかることがあるかも知れない』
そんな風に割と呑気に考えて、雰囲気だけ忙しない気分で師走を過ごしていたら。
暮れも押し迫ったある日の夜、クロマルがとんでもない人を連れて帰ってきた。